大きな水面変動を伴う落差工の波立ちの数値解析手法

要約

定常流解析手法RANSを非定常流に適用するURANSにおいて、水面変動の解析手法にVOF法、乱流モデルに二次非線形k-εモデルを選定することで、農業用水の安定した取水と送配水に支障を来しうる落差工における大きな波立ちを解析できる。

  • キーワード:水面変動、振動跳水、鉛直2次元、VOF法、二次非線形k-εモデル
  • 担当:農村工学研究部門・水利工学研究領域・水利システムユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7547
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

開水路形式の用水路では、流速の過度な増大を防ぐために落差工が設置される。しかし条件によっては、落差工地点で周期的な大きな波立ちが発生して下流まで減勢されずに伝播し、農業用水の安定した取水と送配水に支障を来している。その対策を検討するための方法として、水理模型実験では長大な水路が必要なため実施は容易ではない場合が多い。本来の非定常流解析手法では3次元解析が必須であり、かなり小さな格子を用いる必要があるため、計算時間が膨大になる。そこで本研究では、大きな水面変動を伴う非定常流を迅速に把握するための数値解析手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 定常流解析手法の一つであるRANS(Reynolds-Averaged Navier-Stokes Simulation)による非定常解析URANS(Unsteady RANS)は、大きな水面変動を伴う流れに対しては、これまで十分な再現性が確認された研究事例はない。それに対し、水面変動の解析手法にVOF(Volume of Fluid)法、乱流モデルに二次非線形k-εモデルを適用する本手法は、大きな水面変動を伴う非定常流を解析できる。本手法はRANSであることから、本来の非定常流解析手法であるLES(Large Eddy Simulation)とは異なり3次元解析は必須ではなく、LESよりも大きな格子での解析が可能なため、計算時間を大幅に短縮できる。
  • 上記1のURANSを、勾配1/500,長さ7.5m,幅0.3m,高さ0.2mのガラス張り水路を用いて実施された既往の落差工の水理模型実験(図1、表1)に適用する。
  • 水クッションの長さを変化させた結果、大きな水面変動を伴う非定常流である振動跳水は既往の実験ではL=0.065~0.090mのときに発生したのに対し、本研究の解析ではL=0.075~0.085mのときに発生している。振動跳水の発生するLの範囲は実験結果とは異なるが、URANSによってこのような非定常流の再現が確認されるのは初めての事例である。
  • 振動跳水の実験による計測結果(図2)と解析結果(図3)を比較すると、波立ちのピークの発生する時刻が解析(図3(c))の方が実験(図2(b))よりも0.35s程度遅い、波立ちのピークの高さが解析の方が0.01m程度高い等の差異はみられるものの、その周期はほぼ同じ約1.7秒であり、繰り返される現象もほぼ同様である。これらの結果から、本研究の解析手法は、大まかな現象を迅速に捉えることが必要な場合に非常に有効な手段となる可能性を有すると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 本成果の活用者は、土地改良事業において落差工の実務的な水理設計に携わる農林水産省や都道府県の技術系職員や民間の設計会社職員等の農業土木技術者である。
  • 再現性の向上が今後の課題である。

具体的データ

図1 既往の水理模型実験の概念図,表1 既往の水理模型実験の条件,図2 既往の水理模型実験の結果,図3 本研究による解析の結果

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2018年度
  • 研究担当者:浪平篤、髙木強治
  • 発表論文等:浪平ら(2019)土木学会論文集B1(水工学)、75(2):I_577-I_582