ドリップ灌漑を実施したカキ圃場の土壌水分動態と灌漑効果

要約

一日あたり3mmを灌水すると、平年並みの降水量であれば土層をpF3.0以下で維持でき、L以上の等級のカキの果実を10%増加させることができる。干ばつ年には、3.5mm/dに灌水量を増やすことで、表層の土壌水分状態を生長阻害水分点以下に保ち、より大きな灌漑効果が期待できる。

  • キーワード:畑地灌漑、生長阻害水分点、乾燥ストレス、カキ
  • 担当:農村工学研究部門・農地基盤工学研究領域・畑整備ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7547
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

果樹への灌漑効果は果樹の種類により異なる。カキの灌水効果については岐阜県等の産地でいくつかの報告事例があり、灌水効果の高い作物と言われている。しかし、土壌水分状態の測定結果からカキの灌水効果を詳細に検討した事例は少なく、灌漑がカキの収量や品質に与える影響について定量的な評価が必要とされている。そこで、おけさ柿として知られるカキの産地である新潟県佐渡市において、ドリップ灌漑を行う灌水区と無灌漑の対照区を設けて土壌水分状態の測定を実施し(図1、2)、栽培期間の土壌水分状態と収益に直結するカキ果実の等級割合(果実の大きさ)を定量的に評価する。また、これらの結果から、干ばつ年でもカキが水ストレスを受けず、通常年と同程度の果実の品質が確保できると考えられる灌水量を推定する。

成果の内容・特徴

  • 新潟県佐渡市内のカキ圃場では、1日あたり3mm灌水すれば、土層が乾燥してもpF3.0前後を維持でき(図3)、L以上の等級の果実割合も10%程度増加させることができる(表1)。しかし、夏季に1カ月以上の無降雨期間(対象地域では3年に一度程度の頻度で発生)が発生すると、2Lの等級の果実割合は小さくなる(表1)。このことから、カキの灌漑計画を立てる際には、有効水分の下限界は生長阻害水分点(pF3.0前後)とすることが望ましい。
  • カキの根の吸水は幹から1.2m離れた地点でも行われるため、幹から離れた地点に灌水チューブを設置しても十分な灌水効果が期待できる。このことは、灌水区のカキの幹から1.2mの地点と対照区の幹から0.2mの地点で同様な土壌水分変動を示すことからわかる。
  • 夏季に1カ月以上の無降雨期間が発生する干ばつ時には、1日あたり3mmの灌水では、土層(深さ15cm)がpF3.0よりも乾燥するようになり(図3)、カキが若干水ストレスを受ける可能性がある。
  • 土壌水分観測結果から、降雨2日後から生長阻害水分点になるまでの無降雨期間における蒸発散量は1日あたり4.3mmと推定される。また、各土層における土壌水分の減少量から、カキの有効土層深は60cm、有効土層中の水分消費型(SMEP)は深さ0~22.5cmの土層(第1層)が67%、深さ22.5~40cmが28%、深さ40~60cmが5%と計算される。これらのパラメータを用いて、1カ月程度の期間無降雨状態が続き、土壌がpF3.0以下で水ストレスを受けず、通常年と同程度の果実の大きさが確保するためには、土層に貯留された有効水分量を考慮しながら1日あたり3.5mm程度の灌水を実施すれば良い。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は佐渡市羽茂地区の土壌・気象条件での結果であり、他の地域に適用する場合には同様の手法による検討が必要である。

具体的データ

図1 試験圃場における試験区とドリップチューブの配置の見取り図,図2 水分センサーの配置,図3 干ばつ年(2018年)の無灌水区(対照区)と灌水区(ドリップチューブを幹から1.2 m の地点に設置)における生育期間中の降水量(P)、土壌水分量(体積含水率; θ)、マトリックポテンシャル(pF)の推移,表1 一個あたりの果実重と等級別個数割合

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:岩田幸良、宮本輝仁、亀山幸司
  • 発表論文等:岩田ら(2019)農業農村工学会論文集、87(2):I_227-I_237