水管理主体の変化が土地改良区の組織運営管理に及ぼす影響の因果モデル

要約

農業・農村の構造の変化に伴う「水管理主体の変化」と、それから予想される「土地改良区の組織運営管理に及ぼす影響」の因果関係を、図形式で表したモデルである。運営への支障を避けるための、影響への適応策や原因の抑制策の検討に必要となる、予想される影響とその原因が分かる。

  • キーワード:水管理主体、土地改良区、組織運営管理、因果モデル、適応策、抑制策
  • 担当:農村工学研究部門・農地基盤工学研究領域・用水管理ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7547
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

わが国の水田稲作では、大規模経営体と小規模農家への二極分化といった農業・農村の構造の変化に伴い、用排水路の管理を担う人々や組織(以下「水管理主体」という。)が変化し、土地改良区の組織運営管理に影響の生じることが予想されている。運営に著しい支障の出ることを避けるためには、適時に対策を実施できるよう、予め行政部局や土地改良区において、予想される影響に基づいて適応策を検討したり、影響と原因の因果関係の情報に基づいて抑制策を検討したりしておくことが効果的であると考える。そこで、本研究では、統計データを用いた定量分析と先行研究の知見を用いた定性分析の手法を用いて、水管理主体の変化が土地改良区の組織運営管理に及ぼす影響の因果モデルを開発する。

成果の内容・特徴

  • 図1に、水管理主体の変化が土地改良区の組織運営管理に及ぼす影響の因果モデルを示す。四角は「要素」を、矢印は「影響を及ぼす関係」が予想されることを表し、それらを囲む3つの枠は、下から順に各要素が「農業・農村の構造の変化」「水管理主体の変化」「土地改良区の組織運営管理に及ぼす影響」のいずれに区分されるのかを表す。
  • 図1における因果関係の例として、「大規模経営体と小規模農家への二極分化の進行」(農業・農村の構造の変化の枠内右上)に着目する。この場合、二極分化が進み土地改良区の受益地の大半を大規模経営体の組合員が経営するようになっても、議決権は面積に関わらず一人一票なので、その大半は多数の小規模農家の組合員が持ったままである。よって、意見が反映されにくい大規模経営体の組合員について、「土地改良区内での意思決定における不平等感の増加」(水管理主体の変化の枠内上段)することが予想される。
  • 「不平等感の増加」が進むと、組合員の中で不平等感を抱いている大規模経営体が、「同じ組合員である小規模農家と平等に扱われていないのに、同じように義務を果たす気持ちにはなれない」と考え、「組合員の義務履行意欲の低下」(土地改良区の組織運営管理に及ぼす影響の枠内中央)することが予想される。そのため、組合員の義務とされる維持管理の労力負担などが滞り、組織運営管理に支障の出ることが見込まれる。
  • 対策の検討例として、上記の「義務履行意欲の低下」に着目すると、適応策としては、義務を果たせば報奨し果たさなければ過怠金を課すといった意欲向上策が考えられる。しかし、水管理の基本目標が平等な水配分であることを考えれば、適応策よりも、原因である「意思決定における不平等感の増加」の抑制策から検討を始めた方が良いと考える。具体的には、一人一票制から、各組合員が耕地面積に応じた票数の議決権を行使する面積要件付加制への転換といった、議決権の見直しを行うことが考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、土地改良区に関わる研究者や行政部局担当者が、水管理主体の変化が土地改良区の組織運営管理に及ぼす影響への対策を検討する際の情報として活用できる。
  • 図1において、要素間に「影響を及ぼす関係」がある場合、明示したものの他にも、未知の要素や捨象した要素が影響を及ぼす可能性のあることに留意が必要である。

具体的データ

図1 水管理主体の変化が土地改良区の組織運営管理に及ぼす影響の因果モデル

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:鬼丸竜治、北村浩二、吉村亜希子、大和田辰明
  • 発表論文等:
    • 鬼丸(2019)農業農村工学会論文集、87(1):II_19-II_28
    • 鬼丸ら(2018)農研機構研究報告農村工学研究部門、2:57-80