繰返し荷重を受ける硬質塩化ビニル管の疲労による破損

要約

管内の水圧変動が頻繁に生じる地区において、硬質塩化ビニル管の長期的な安全性を評価する際には、従来の破壊強度から求めた許容応力による照査だけでなく、疲労を考慮する必要がある。疲労による破損は破壊強度の1/3程度でも発生し、口径の違いで疲労に対する抵抗性が異なる。

  • キーワード:塩化ビニル管、疲労、管内の水圧、破面解析、偏平試験
  • 担当:農村工学研究部門・施設工学研究領域・土構造物ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7569
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

硬質塩化ビニル管(塩ビ管)は1961年に完成した愛知用水事業から農業用パイプに利用されており、敷設後数十年経過した管も多い。老朽化や更新時期を迎える施設が多く、破損事故も生じている。40年以上供用されても健全性を有しているものもあるが、一方で、10年程度の供用年数で破損事故が発生する場合もある。
この原因を究明するため、長期間利用されて破損した塩ビ管を疲労に着目して調査する。なお、疲労とは、材料の強度以下の荷重しか作用していなくても荷重が繰返し作用して、亀裂が進展し破損する現象である。農業用パイプの現場(以下、本地区とする)で30年以上利用された後に破損した塩ビ管の破面解析及び現場での管内の水圧計測を行い、管の破損原因を調査する。また、現場から掘出した管で外圧疲労試験(亀裂が生じるまで、一定の変位を繰返し与える試験)及び偏平試験(管を変形させ、亀裂発生の有無などを確認する試験)を行い、疲労などの長期特性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 破損管の亀裂が生じた断面には、疲労破面に特徴的な貝がら状の模様であるビーチマークがある(図1)。また、ビーチマークから推察される起点付近には、ラチェットマークと呼ばれる段差を観察できる。このように、破面解析を行うことで、管の破損原因が疲労かどうかを特定できる。
  • ポンプ圧送方式の圧力水槽式のパイプラインでは、供用中に管内の水圧の変動が生じる。図2のように、本地区では、0.4~0.6MPaの水圧の変動が頻繁に生じており、供用期間中には数百万回の水圧の変動が管に作用すると推察される。本地区の塩ビ管の設計水圧が1.0MPaであるのに対し、それより小さい水圧で破損していることから、破損原因は疲労であると考えられる。水圧の変動が頻繁に生じている地区で、管の長期性能を評価する際には、破壊強度と安全率から求まる許容応力による従来の照査だけでなく、疲労による破損も考慮する必要がある。
  • 外圧疲労試験では、繰返し荷重により、管底及び管頂内面に疲労による亀裂が生じる(図3a及びb)。たわみ率(管の変形量の指標)の振幅や平均が大きいほど、小さい繰返し回数で亀裂は発生する(図3c)。多数の繰返し荷重を受けると、塩ビ管の破壊強度が45MPaに対して、その1/3程度の応力(16MPa:ケースNo.1の管頂と管底に発生)でも疲労による亀裂が発生する。また、疲労に対する抵抗性は口径200mmの方が300mmよりも大きく(図3c)、口径の違いで異なる。
  • 現場で30年以上利用された塩ビ管の偏平試験では、管を大きく変形(たわみ率50%)させても、割れや亀裂は生じず、剛性や強度の顕著な低下も生じない(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 塩ビ管の疲労強度は材質や成形条件等によって異なるため、今回の疲労試験の結果は全ての塩ビ管に成り立つわけではない。疲労に対する抵抗性を詳細に検討するためには、今後、より多くの管で試験を実施する必要がある。
  • 比較的高い水圧が作用し、且つ水圧の変動が頻繁に生じている畑地かんがいの地区などで、疲労による破損が懸念される。

具体的データ

図1 マイクロスコープによる破面解析,図2 管内の水圧の計測結果,図3 現場から掘出した塩ビ管の外圧疲労試験の概要,図4 偏平試験の状況

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(資金提供型共同研究)
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:有吉充、田中良和、堀俊和、泉明良、寺家谷勇希
  • 発表論文等:
    • 有吉、田中(2019)農業農村工学会論文集、87(2):I_349-I_356
    • 有吉、田中(2019)農業農村工学会大会講演会講演要旨集:496-497