原発被災地の水稲作における用水からの放射性セシウムの流入の影響

要約

原発被災地の水稲栽培において、用水から流入する放射性セシウムは少なく、カリ増肥による吸収抑制対策を適切に行う限り、玄米に含まれる放射性セシウムは食品の基準値と比べて十分低い。

  • キーワード:原発被災地、放射性セシウム、灌漑水、流入量、営農再開
  • 担当:農村工学研究部門・地域資源工学研究領域・水文水資源ユニット
  • 代表連絡先:電話 024-593-1310
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

原発事故による放射性物質の拡散に伴って、水稲作において農業用水への放射性セシウム(RCs)の流入が懸念された。そのため、2012年以降、営農再開に向けて、水田における農業用水を通じたRCsの流入の影響や水田内におけるRCsの動態の評価が課題となった。そこで本研究では、これまで主に除染水田で実施された用水に係る水稲栽培試験の結果に基づいて、原発被災地における水稲栽培における用水からのRCsの流入量を定量的に把握するとともに、玄米のRCs濃度への影響について明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 2013年より2015年にかけて原発被災地の各所(図1)で実施された用水水質が調べられた水稲栽培試験において、玄米のRCs濃度が食品の基準値である100Bq/kgを超える事例はない。
  • 川俣町山木屋の日向および細田地区、飯舘村草野、小宮、長泥ならびに浪江町酒田の6地区の除染水田における試験において、用水からのRCsの流入量は、河川水利用で50~670(Bq/m2/作期)、ため池利用で190~1200(Bq/m2/作期)、地下水利用で0.8(Bq/m2/作期)である(表1)。
  • 用水を通じたRCs流入量は、作土のRCs量と比較すると0.0003~0.36%の範囲にあり限定的である。同様に、表1以外の図1に示した他の地区や他年度においても用水を通じたRCsの流入量は作土中のRCs存在量と比較して少ない。
  • 表1に示した地区において、収穫された玄米のRCs濃度は概ね4Bq/kg以下であり、食品中のRCsの基準値である100Bq/kgと比較すると十分小さい。表1以外の地区や年度においても、収穫された玄米中のRCs濃度は食品の基準値と比較して十分に低かった。したがって、カリ増肥による吸収抑制対策を行う限り、用水から流入するRCsによる玄米への影響はほぼないといえる。

成果の活用面・留意点

  • この研究成果は、カリ増肥による吸収抑制対策を行う条件で得られた成果である。

具体的データ

図1 用水に係る主な試験地,表1 除染水田における用水からのRCsの流入量と玄米に含まれるRCs濃度

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(営農再開)、その他外部資金(行政支援型共同研究)
  • 研究期間:2012~2019年度
  • 研究担当者:久保田富次郎、錦織達啓、申文浩(福島大学)、宮津進(新潟大学)
  • 発表論文等:
    • Shin M. et al.(2019)PWE. 17:703-714
    • Shin M. et al. (2015) J.of Water and Environment Tech. 13(5):383-394
    • 久保田ら (2020) 農業農村工学会誌、88(2):107-110