市町村等が行う各種の農地現況確認業務を効率化する農地一筆調査支援システム

要約

本システムはPC用GISソフト「VIMS」とタブレット用モバイルGISアプリ「iVIMS」で構成される。VIMSを用いて構築したデータセットはiVIMSと双方向で同期できる。農地の現況確認にiVIMSを活用すると、調査結果の入力、撮影写真の記録など現場で行う一連の作業を効率的に実施できる。

  • キーワード:農業委員会、利用状況調査、中山間地域等直接支払、多面的機能支払、行政のDX
  • 担当:農村工学研究部門・地域資源工学研究領域・資源評価ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

地理情報システム(GIS)が行政業務に普及しない要因として、GISに精通していないユーザーには背景地図(航空写真等)の画像情報や対象地物(農地筆等)の位置情報・属性情報をGIS上で取り扱うためのデータセットの構築が困難であること、各行政業務におけるGISの具体的利用手順が不明であること、及びGIS利用による業務効率化等のメリットが不明であることが挙げられる。
そこで本研究では、農研機構が過去に開発したGISシステムを対象として、行政業務への普及実証試験を行う。本GISシステム利用による効率化が大きく見込まれる行政業務、具体的には市町村農業委員会が実施する利用状況調査(農地法第30条)における農地の現況確認業務を対象とし、同業務に対応した本GISシステムの機能強化と運用体制の構築を行う。

成果の内容・特徴

  • 本GISシステムは、PC用のGISソフト「VIMS」とiOSタブレット(iPad)用のモバイルGISアプリ「iVIMS」で構成される。まず、航空写真画像、地番図ベースの農地筆GISデータ、および農地台帳等の農地属性データを準備し、これらをVIMSにインポートしてデータセットを構築する。次に、そのデータセットをiVIMSへ転送し、現地で農地の現況確認に活用する。そして、現地で更新されたデータセットをVIMSへ転送し、調査結果の確認・整理などを行う(図1)。
  • iVIMSには、現在地の表示、農地筆の属性情報の閲覧・更新、写真の撮影・保存(撮影写真にメモ書き可)、属性情報のプルダウンメニュー入力、複数対象への属性情報一括入力、属性値色分け、属性検索など、農地の現況確認を効率化する機能が搭載されている(図2)。ある市町村の利用状況調査において農地の現況確認の担当者にiVIMSを試用してもらった結果、従来の確認方法(A3紙数十枚の農地筆図・調査票、カメラなどを携行)と比較して、時間あたりに確認できる農地筆数が大きく増加し、農地の現況確認における担当者の負担を軽減することができる。
  • 試用時には、現況確認担当者用にiVIMSの操作手順、事務局担当職員用に本GISシステムの利用状況調査業務への利用手順を具体的に整理し、マニュアル化するなどの支援を行っている。
  • 航空写真画像と農地筆GISデータについては、都道府県土地改良事業団体連合会が管理する水土里情報データの利用を検討できる。運用上、市町村の担当職員では対応困難な作業(例:システムの初期設定、データセット構築等)は、同連合会等への業務委託を検討すると良い(図3)。
  • iVIMSは、利用状況調査の現況確認のほか、中山間地域等直接支払・多面的機能支払の対象農地や水田転作の現況確認などにも活用できる。またVIMSは、現況確認結果の可視化(図4)や農地現況図の作成などが容易にできるので、人・農地プランなど各種農政関連業務で活用できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:市町村の農業委員会事務局ほか農政関連部署
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:農政関連部署でモバイルGISを未活用の市町村
  • その他:農村振興局等を通じた都道府県土地改良事業団体連合会への働きかけ

具体的データ

図1 農地一筆調査支援システムの概要,図2 農地の現況確認に有効なiVIMSの機能(例),図3 本システムの運用体制構築例,図4 現況確認結果の可視化

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:芦田敏文、福本昌人
  • 発表論文等:
    • 芦田、友松(2018)農業農村工学会誌、86(3):187-190
    • 芦田(2018)職務作成プログラム「iVIMS γ」、機構Q-30
    • 芦田(2019)農研機構2018年度研究成果情報「農地利用状況の現地踏査に有用なモバイルGISアプリ「iVIMS γ(ガンマ)」」
    • 芦田ら(2020)農業農村工学会誌、88(1):11-14