改良版高精度摩耗モニタリングシステム

要約

コンクリート水路の主要な劣化である摩耗のモニタリングに利用できるレーザー変位計を用いた表面形状測定装置と摩耗量計測支援プログラムである。装置の可搬性が高く、Microsoft Excel用マクロとアドインにより、計測時の省力化とデータ分析時の人為誤差の排除が可能である。

  • キーワード:農業水利施設、摩耗、モニタリング、自動化、省力化
  • 担当:農村工学研究部門・施設工学研究領域・施設保全ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

農業用コンクリート水路や水路補修材料が流水等で削られる摩耗は、水路表面に凹凸を発生させ水理性能を低下させるとともに、劣化因子の侵入による構造性能低下を招く。よって、摩耗量の継続モニタリングは水路の計画的維持管理において重要である。農研機構では、レーザー変位計を用いた高精度な摩耗量計測システムを開発しているが、付属機器が多く現地での準備作業や計測操作、取得データの分析におけるファイル操作などが繁雑である。
そこで、装置の簡略化、人為誤差の排除および分析における省力化を目的として、計測装置を改良し、摩耗量計測支援プログラムを作成する。

成果の内容・特徴

  • 摩耗量計測の手順は、まず計測の基準となる標点(ステンレス製アンカー)を設置する。レーザー変位計の走査線が標点の上を通るように本体を据え、計測開始ボタンを押すとレーザー変位計が始動し、標点の上を通りながら0.1mm間隔で表面形状を取得する。その後、標点頂部から対象表面までの平均距離を計算する。摩耗量を得るためには異なる年次の平均距離を比較する(図1)。
  • 改良システムでは、レーザー変位計のデータをPCに直接取り込むことで従来の計測システム構成からデータロガーを排し、バッテリーをリチウムイオン電池に変え、システムの簡略化および軽量化することで、現地で作業台等を要さずに計測作業が可能である(図2)。
  • 従来は、データはデータロガーを介してMicrosoft Excelに出力されるため、計測の都度ファイルを保存し、次の計測箇所に対して新たなファイルを用意する必要があるなどPCの操作も繁雑であったが、改良システムでは、データは連番付きのcsvファイルで計測ごとに直接PCに保存されるため、計測間のファイル操作が不要になり、現地での計測作業を効率化できるとともに、データの保存ミスを防げる(図2、図4)。
  • 従来システムは、取得データを一度グラフ描画し、標点位置を目視確認して数値を手入力する操作が必要である。標点位置は分析結果に影響するため、精度を保った結果を得るためには手間がかかる。改良システムでは、Microsoft Excel用マクロとアドインによって、データの読込み、標点位置の自動検出、結果の表示までを1クリックで実行できる(図2、図3)。
  • 改良システムでは、計測後即時にデータ概形を表示する(図4)。また、データ読み込み時に装置のぐらつきや、欠測等のデータの品質を検査し、エラーメッセージを表示する機能を設けることで、現場での計測ミスを防ぐ(図3)。
  • 改良システムは従来と同様の計測原理と精度(±0.1mm)であり、既設の標点を引続き利用できる。また、計測支援プログラムは従来装置でのデータ収録と分析にも対応している(図3)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:全国の農政局、コンサルタント会社。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:
    対象は全国の摩耗が生じる施設。参考としてこれまでの使用実績は、実水路の摩耗量モニタリングを目的としたものだけで延べ約1,000点。
  • その他:
    運用の一例としては、装置は農政局が購入あるいは借用し、支援プログラムは農研機構の許可を得て、配布および利用することができる。

具体的データ

図1 摩耗量計測手法,図2 従来システムと改良システムの主な違い,図3 入出力画面とエラー表示の例,図4 制御・記録ソフトの画面例(標点頂部が欠測の事例)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:川邉翔平、中嶋勇、森充広、高橋良次、金森拓也、川上昭彦
  • 発表論文等:
    農研機構(2020)職務作成プログラム「摩耗モニタリング支援Microsoft Excel用マクロ・アドイン」、機構―Q45