圃場水管理システムを用いた普通期における必要水量の算出法

要約

水稲作における一定の水位を維持する普通期の水管理において、圃場水管理システムの水位データから算出した減水深は実測値と大きな差はない。算出した減水深から求めた水位維持に必要な用水量は、実際の用水量と概ね一致し、システムの水位データを活用することで用水量が算出できる。

  • キーワード:圃場水管理システム、減水深、用水量、ICT
  • 担当:農村工学研究部門・農地基盤工学研究領域・水田整備ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農家人口の減少に伴う経営規模拡大などによって営農形態や栽培様式が変化しつつあり、それに伴い水管理労力が増大し、かつ水需要も多様化してきている。そのため、従来の供給主導型ではなく需要主導型への転換が求められているが、需要主導型の配水システムにおいて安定的かつ効率的な配水には圃場ごとの水需要を把握することが重要であり、それには多大な労力とコストを要する。そこで、ICTを活用して水管理労力の大幅な省力化を実現する圃場水管理システムにより、1日あたりに必要な用水量(以下、必要水量)の把握が可能になる。

成果の内容・特徴

  • 圃場水管理システムでは、一定の水位を維持する管理(以下、一定湛水)をする際、省電力と小型化を図るため、常に同一水位を維持するのではなく、設定水位と制御する幅(以下、制御レンジ)を定め、レンジ内を維持する水位制御を行う。そのため、制御レンジと水位が低下するまでの時間を用いることで減水深の算出が可能となる(図1)。例えば、所内試験圃場Aの8月10日から11日の水位変化から算出した減水深は13.0mm/dayとなる。
  • 圃場水管理システムが備わる所内試験圃場2筆(圃場A:関東ローム土、圃場B:重粘土)を対象に、減水深の実測を行った日と同日の水位データから減水深を算出したところ、±1.0mm/day程度の差となる(表1)。
  • 一定湛水期間中に算出される減水深は連続する日においても異なる(図1)。そこで、日変動を平準化した減水深の平均値と圃場面積から用水量を算出する。所内試験圃場Aにおける8月10日から19日までの減水深の平均値は11.0mm/day、必要水量は23.1m3/dayとなり、10日間の合計用水量は231m3となる。実際に使用した用水量の227m3との誤差は1.7%とほぼ同等の値を示している。
  • 同様に圃場水管理システムが備わる新潟県試験圃場(新潟県燕市、重粘土、0.5ha×2筆)において、圃場Cの算出した減水深は7.0mm/day、実測値との差は0mm/dayである。同様に圃場Dの算出した減水深は15.4mm/day、実測値との差は+0.4mm/dayである(表2)。
  • 前述の4で得た減水深と圃場面積から設定水位まで灌漑するための必要水量を算出すると、圃場Cが44.9m3、圃場Dが94.2m3となる(表2)。実際に灌漑した用水量は42.2m3、87.7m3であり、算出された減水深を用いることで必要水量が誤差1割程度の精度で把握できる。

成果の活用面・留意点

  • 圃場水管理システムを導入することで、一定の水位を維持する普通期において圃場ごとの減水深が測定でき、必要水量の算出が可能となる。減水深データを蓄積して平準化することで、同時期の水位を一定にする制御であれば、その値を用いて必要水量を予測することが可能と考えられる。代かき期やかけ流し管理などの普通期以外の必要水量の算出は今後の課題である。
  • 減水深は原則24時間観測であるが、ここでは圃場条件や制御レンジによって観測時間が異なる。そのため、制御レンジ分の水位が低下するまでの時間が極端に短い場合や24時間を大きく超える場合は、得られる減水深の精度に影響することがある。また、設定水位および制御レンジは任意の値に変更可能なため、制御レンジを圃場に合わせて調整することで精度向上に効果があると考えられる。
  • 圃場レベルの減水深が把握できることで、代かき回数の調整や転作の適・不適などの判断が数値で判断できるようになり、圃場特性を考慮した営農計画が立てやすくなる。
  • 圃場水管理システムの導入が進むことで、圃場ごとの必要水量から圃区・農区レベルへと範囲を拡大することが可能と考えられる。

具体的データ

図1 一定湛水による水位制御と減水深および用水量の算出,表1 減水深の実測値と算出値の比較,表2 新潟県試験圃場C、Dにおける減水深および用水量の比較

その他

  • 予算区分:その他外部資金(SIP、H29補正「生産性革命」)
  • 研究期間:2014~2018年度、2018~2020年度
  • 研究担当者:若杉晃介、新村麻実、篠原健吾、鈴木翔
  • 発表論文等:若杉ら(2018)農業農村工学会誌、86(4):15-18