エネルギー損失の少ないサイホンのトランジション縦断形状の設計手法

要約

開水路形式の用水路におけるサイホンでは、管体への移行部であるトランジションの縦断形状によってはエネルギー損失が過大となる場合があり、適切な設計が必要である。3次元流れの数値解析は再現性が高く、水理模型実験のケース数の絞り込みに活用できる。

  • キーワード:サイホン、トランジション、3次元流れの数値解析、水理模型実験
  • 担当:農村工学研究部門・水利工学研究領域・水利システムユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

開水路形式の用水路が河川や道路等を横断する際、それらの下部に満流状態の管体であるサイホンが設置される。設計基準「水路工」では、開水路から管体への移行部であるトランジションのうち平面的な形状については漸縮角を10°以下とすることが条件として課せられているものの、縦断的な形状については特に定められていない。しかしながら、この縦断的な形状によるエネルギー損失が過大となる可能性がある。本研究では、事例地区を対象に、エネルギー損失がより小さくなるトランジションの縦断形状を検討するとともに、その設計手法として3次元流れの数値解析と水理模型実験の有効性を示す。

成果の内容・特徴

  • 事例地区のサイホンは設計基準に基づいて整備されているが、2017年の現地観測によるとその上流側では最大流量時に水位が設計値を大きく上回り(表1)、溢水防止のための余裕高に不足が生じている。
  • 上記1の要因分析のため3次元流れの数値解析を行ったところ、管体への入り口の頂部で大きな渦が発生しており(図1(a))、この渦によるエネルギー損失がサイホン上下流の水位差を設計値よりも過大としている原因と考えられる。なお、この数値解析で使用する手法は、2015年度の研究成果情報「横越流堰の水理設計のための3次元流れ解析手法」と同一である。
  • 上記2の渦を解消することを目的として、現場で施工できる範囲でトランジションの縦断的な形状を変化させた複数のケースを対象に同様の数値解析を行い、サイホンの上下流の水位差が設計値に最も近くなる形状を選定する(図1(b)、表1)。
  • 現況すなわち改築前と、上記3の最適形状すなわち改築後を対象とした水理模型実験から、数値解析と実験による水位差はほぼ同値であり、数値解析が十分な再現性を有することが確認されている(表1)。実験では数値解析と同様に改築前の形状では渦が発生し、改築後の形状では発生しないことも確認されている(図2)。
  • 以上の検討を踏まえてサイホンの改築が行われた結果、改築前と同一の流量ではないため厳密な比較は行えないが、2019年の現地観測では改築による効果の発現が確認されている(表1)。
  • 各現場の地形条件に応じたサイホンのトランジションを最適な形状に設計する際には、3次元流れの数値解析は再現性が高いため、水理模型実験のケース数の絞り込みに活用できる。

成果の活用面・留意点

  • 本成果の活用者は、土地改良事業においてサイホンの実務的な水理設計に携わる農林水産省や都道府県の技術系職員や民間の設計会社職員等の農業土木技術者である。
  • 事例の蓄積が必要である。

具体的データ

図1 3次元流れの数値解析の結果,図2 水理模型実験の結果,表1 サイホンを通過する流量と上下流の水位差

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(資金提供型共同研究)
  • 研究期間:2017~2020年度
  • 研究担当者:浪平篤、服部吉朗(三祐コンサルタンツ)
  • 発表論文等:浪平ら(2018) 土木学会論文集B1(水工学)、74(5):I_679-I_684