配水均等性とエネルギー削減を目的とした小規模ポンプにおける回転速度制御

要約

水田灌漑のための直送方式の小規模ポンプにおける回転速度制御の各方式を比較すると、樹枝状の全ての支線配管の末端にある給水栓を監視する方式の導入が困難な場合は、配水の均等性とエネルギーの削減に対して末端圧力一定制御演算方式が有効である。

  • キーワード:パイプライン、配水均等性、エネルギー削減、末端圧力一定制御演算方式
  • 担当:農村工学研究部門・水利工学研究領域・水利システムユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、水田灌漑のための直送方式の小規模ポンプ(低圧受電契約)を対象に、インバータを用いた回転速度制御によるエネルギーの削減効果が確認されており、普及が期待されている。しかしながら、回転速度制御の各方法によるエネルギー削減効果の違いや、回転速度制御の導入が各圃場への配水の均等性に及ぼす影響については、これまでに十分に検討されていない。本研究では、水田灌漑システムのモデルを対象に水理解析を行い、回転速度制御の方法の違いによる配水の均等性とエネルギー削減効果の比較検討を行う。

成果の内容・特徴

  • 既往の研究を参考に、ポンプ直送方式の水田灌漑システムのモデルを作成する(図1)。
  • 上記1のモデルにおける給水栓の開閉状況は、各給水栓に与えた乱数が判定値よりも小さければ全閉、大きければ全開と設定する。この判定値には0.25、0.50、0.75の3通りを設定し、それぞれを圃場での水需要が大きい開閉パターン、中程度のパターン、小さいパターンとする。各パターンの数はいずれも500である。
  • 水道分野で一般的に用いられる回転速度制御の3方法について比較を行う。具体的には、吐出圧力一定制御、末端にある給水栓のうち監視対象の数を1、2、4と変えた末端圧力一定制御実測方式(以下、実測方式)、末端圧力一定制御演算方式(以下、演算方式)である。これらの違いとしては、開いている給水栓の数が減ったときに、吐出圧力一定制御ではポンプ吐出圧力が計画値で一定となるよう回転速度を低下させ、実測方式では監視対象の末端給水栓のうち圧力が最小となる地点において必要給水量が確保される程度に回転速度を低下させ、演算方式では計画時に末端に設定した一つの給水栓において必要給水量が確保されるように、水理解析によって作成した目標圧力曲線(図2)に基づいて回転速度を低下させる。いずれの方法でも回転速度の下限は60%とする。
  • 上記3の各制御方法による配水の均等性として、全ての給水栓の開閉パターンのうち給水量が最小となる地点で目標給水量に対する不足が発生しているパターンの割合(表1)は、4点の実測方式が最も少なく、次に演算方式が少ない。
  • 上記3の各制御方法によるエネルギー削減効果として、ポンプの水動力(ポンプ揚程×ポンプ吐出量×水の密度×重力加速度÷1000)の平均値(表2)は、実測方式、演算方式、吐出圧力一定方式の順で小さい。実測方式の中では上記4の不足するパターンの発生が多いものほど小さい。実測方式と演算方式の差は大きなものではない。
  • 上記4および5より、4点の実測方式には僅かに劣るものの演算方式による配水の均等性とエネルギー削減効果は高く、現場条件や維持管理上の問題により末端にある給水栓の全てを監視する方式の導入が困難な場合に演算方式は有効である。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、土地改良事業によって低圧受電契約の小規模灌漑ポンプの運転にかかるエネルギーの削減を目的として配水制御システム(特開2019-140954)等の水管理制御システムの計画設計が行われる際に活用される。

具体的データ

図1 既往の研究を参考にしたポンプ直送方式の水田灌漑システムのモデル,図2 演算方式で使用する目標圧力曲線,表1 最小給水量地点で不足が発生する開閉パターンの割合(%),表2 水動力の平均値(kW)

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(資金提供型共同研究)
  • 研究期間:2017~2020年度
  • 研究担当者:浪平篤、光安麻里恵(三祐コンサルタンツ)
  • 発表論文等:光安ら(2020) 農業農村工学会論文集、311:I_295- I_302