省力化を目的とした土地改良区職員の水利施設管理労力の実態調査

要約

茨城県行方市の水田パイプライン灌漑地区を管理する土地改良区において、水利施設管理の省力化に資するため、施設管理労力を明らかにする。この土地改良区では、用水機場の管理に最も多くの労力を要しており、省力化を図るためには配水調整の作業回数を抑制する対策が有望である。

  • キーワード:土地改良区、省力化、ポンプ灌漑、作業回数、作業時間
  • 担当:農村工学研究部門・水利工学研究領域・水利システムユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、土地改良区では人手不足による水利施設の職員1人当たりの管理労力の増大が問題となっている。この問題に対応するため、1.土地改良区職員が行う施設管理業務への農業者や住民、市町村、外部サービスの参画(協働化)や、2.情報通信技術(ICT)を活用した水管理情報の共有や遠方監視・自動制御システムの導入(自動化)等、の対策が提案されている。今後は、これらの対策の中から、各土地改良区が直面する問題に応じて最適なものを選択し、対策によりもたらされる便益の最大化を図ることが望ましい。このためには、土地改良区職員の水利施設管理労力の実態を把握する必要があるが、これに関する知見は少ない。そこで、人手不足が生じている土地改良区を対象にして、水利施設管理労力の実態を明らかにし、職員の省力化に資する対策を検討する。

成果の内容・特徴

  • 調査対象の土地改良区は茨城県行方市に位置し、その受益地区の面積は301haである(図1)。土地改良区が管理する地区内の水田へは、ポンプ灌漑によりパイプラインを通して給水される。本土地改良区の常勤職員は1人であり、水利施設の管理と事務作業を担っている。近年は老朽化による水利施設の故障への対応のため、職員の施設の補修や修理に割く時間が増加しつつあり、施設管理上の人手不足が生じている。この職員を対象に水利施設の管理労力を把握する。
  • 管理対象の水利施設は167箇所であり、最も施設数が多い圃場給水栓では農家からの依頼により上下流間の配水調整や修理を行っている(図1)。作業回数および作業時間に占める用水機場の割合は、いずれも約5割であり、職員は用水機場の管理に最も多くの労力を要している(図2)。
  • 同じ水利施設区分でも箇所によって職員の管理労力は大きく異なる。ため池において、下流の圃場における水需要量が集水域からの流入水量に比較して多い箇所では、ゲート操作による放流水量の調整を頻繁に行い節水に努めている。また、いくつかの用水機場では、職員の施設管理の負担軽減を図るため、灌漑期間のみ臨時に雇用される外部の施設管理者が操作を担っている。
  • 本土地改良区では、各水利施設における作業毎の特徴から、その内容を1.水需要に応じた配水調整、2.施設の補修・保全、3.水路溢水防止、の3つに区分できる。このうち、配水調整に関する作業である、見回り・点検や施設操作、水量調整の合計の作業時間は133hであり、これは水利施設の全作業時間(187h)の約7割を占め、最も長い。
  • 配水調整は、施設の補修・保全や水路溢水防止に比較して、作業1回当たりの平均作業時間が1.9~8.4分/回と短いが作業回数が79~576回と多い範囲に分布する(図3)。この配水調整では、その作業が単純であるため協働化や自動化の適用により、現地での作業回数を抑制する対策の導入が省力化を図る上で有望である。また、水利施設は広範囲に分布し施設管理時の移動時間が長いため、作業回数の抑制による移動時間の削減も検討する必要がある。

成果の活用面・留意点

  • 土地改良事業における事業計画策定の際の効果算定等の参考データとして活用できる。
  • 活用者は、土地改良事業に携わる農林水産省や都道府県の技術系職員や、設計会社職員である。

具体的データ

図1 調査対象の水利施設の位置,図2 作業回数および作業時間に占める各水利施設の割合,図3 作業1回当たりの平均作業時間と作業回数の関係

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(受託試験)
  • 研究期間:2018~2020年度
  • 研究担当者:人見忠良、中矢哲郎
  • 発表論文等:人見ら(2020)農業農村工学会論文集、311:I_261-I_269