水蒸気移動を考慮した地中熱ヒートポンプの採熱効率の数値シミュレーション手法

要約

水平型地中熱ヒートポンプの熱交換器の採熱効率を評価する際に、冷房時の地温上昇に伴う水蒸気移動による熱輸送の影響で数値シミュレーションの結果が実測値と乖離する問題に対し、見かけの熱伝導率を温度の関数として与えることで簡便かつ高精度な数値計算を可能にする手法である。

  • キーワード:不飽和土壌、地熱利用、施設園芸、熱交換器、水平型
  • 担当:農村工学研究部門・農地基盤工学研究領域・畑整備ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

地中熱ヒートポンプにより、温室の冷暖房等の農業分野への地熱エネルギーの実現が期待されているが、特に都市部で普及している鉛直型ヒートポンプは導入コストが高く、農業分野への導入の障害となっている。そこで、50~100 m 程度の穴を掘る必要がある鉛直型ヒートポンプの代わりに、深さ1~2 m に熱交換器を埋設する水平型ヒートポンプを用いることで、導入費用を下げて農業への利用を可能にする取り組みがなされてきた。鉛直型ヒートポンプの熱交換器のほとんどが地下水位の下の飽和帯に埋設されるのに対し、水平型ヒートポンプは多くの場合、不飽和帯に熱交換器が埋設される。しかし、不飽和帯に熱交換器を埋設した際の熱移動様式については不明な点が多い。
そこで、本研究では水平型ヒートポンプで温室の冷暖房を行う圃場試験を実施し、地温や土壌水分量、熱交換の媒体である熱交換器内の不凍液の温度等を測定する。また、3次元の数値シミュレーションを実施し、計算結果を実測値と比較することで計算結果の妥当性を検証し、熱交換器周辺の不飽和土壌において考慮する必要がある熱輸送の要因を特定する。

成果の内容・特徴

  • 夏の温室冷房時には熱交換器周囲の地温が高くなることで、通常の土壌中の熱移動で考慮される熱伝導による熱の移動だけではなく、不飽和土壌において温度勾配に伴う水蒸気輸送によって発生する低温側から高温側への熱の輸送プロセスが無視できず、これを考慮することで数値シミュレーションによる計算精度が向上する(図1d)。
  • 不飽和土壌中の温度勾配に伴う水蒸気移動プロセスは熱水同時移動モデルを用いて計算することができるが、計算負荷が大きく、地中熱ヒートポンプの熱交換器の性能を評価する際に必要な3次元の数値シミュレーションでは計算負荷が大きい。そこで、図2に示す手順により見かけの熱伝導率を温度の関数として与えることで、計算負荷を大幅に削減し、パソコンレベルの計算速度でも短時間で水蒸気移動を考慮した精度の高い熱輸送の計算が可能となる。
  • 主に飽和帯に埋設する鉛直型地中熱ヒートポンプの熱交換器は地下水の流れによる移流が熱交換器周辺の地温分布に大きく影響することが知られているが、水平型地中熱ヒートポンプの熱交換器については、これに相当する降雨による下方浸透時に発生する移流による熱輸送量は全体の熱の移動に比べて小さく、このプロセスを無視しても精度よく熱交換器周囲の熱輸送を再現できる(図1b、d)。
  • 不飽和土壌の土壌水分量は降雨による浸透により増加し、排水や地表面からの蒸発、植物による吸水により減少するため、熱伝導率や体積熱容量等の土壌の熱物性値は変化するが、熱交換器を埋設する深度(深さ1 m 以深)では降雨イベント時を除くと土壌水分量が安定していることから、土壌水分量の変化に伴う熱物性値の変化を考慮しなくても計算結果は実測値をよく再現することができる(図1 b~d)。
  • 試験を実施した黒ボク土圃場で熱交換器周囲の地温が40°C程度の場合、本手法を用いずに従来の方法で計算した場合に比べ、本手法により水蒸気移動を考慮することで、熱交換器の埋設面積が70~80%程度で同等の熱交換効率が得られるという計算結果になる。冷房主体の地域に水平型地中熱ヒートポンプを導入する際は、本手法により適切な熱交換器の埋設面積を計算することで余計な資材や労力を削減でき、水平型地中熱ヒートポンプ導入のコスト削減に貢献する。

成果の活用面・留意点

  • 本手法は地中熱ヒートポンプの熱交換器の効率の評価だけではなく、土壌を含む多孔質体における高温かつ温度勾配を伴う不飽和状態の物質における熱の移動を、簡便・高精度に評価する際に広く使用できる。
  • 図2aに示した基本的な物理パラメータが得られない場合は、観測データとシミュレーション結果が合うように逆解析的にεを決定することもできる。

具体的データ

図1 観測サイトの概念図(a)と観測期間における日降水量(b)、土壌水分量(日平均値)(c)、熱交換器から地中熱ヒートポンプに供給される冷媒(不凍液)の温度(d)の推移,図2 水蒸気移動を考慮した見かけの熱伝導率の計算プロセス

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2015~2020年度
  • 研究担当者:岩田幸良、山本芳樹(日本工営)、草間俊樹(日本工営)、宮本輝仁、亀山幸司、奥島里美
  • 発表論文等:岩田、山本、特願(2020年11月6日)