小規模ソーラーポンプ水源システムのICTを活用した遠隔監視システムの構築手順

要約

傾斜地果樹園への点滴かんがい導入などの際に貯留雨水などの小規模な水源を利用するためのソーラーポンプシステムに、システム障害を24時間以内に発見するためにポンプの運転状況を遠隔で監視するシステムを、生産者自身が構築する手順を体系的に取りまとめた情報である。

  • キーワード:ソーラーポンプ、点滴かんがい、果樹、IoT、遠隔監視
  • 担当:農村工学研究部門・水利工学研究領域・施設水理ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2013年度普及成果情報として、マルドリ方式を導入するための適切な水源が得られない傾斜地カンキツ園において、再利用雨水、渓流や井戸などの小規模な水源を、太陽電池と小型ポンプを用いたソーラーポンプシステムで活用する技術が提案されている。この技術は、低い位置の水源しか得られない園地においてマルドリ方式で用いる点滴かんがいに必要な水圧を得るために、高い位置に設置したタンクに小さい電力で少しずつ揚水するものである。この技術ではソーラーポンプシステムは自動的に運転され、マルドリ方式では点滴チューブがマルチの下にあるため、システムに障害が発生してかん水が止まっても発見が遅れて、樹や果実の生育に支障を来す危険がある。
その解決策としての、ポンプの運転状況を遠隔で監視して、障害が発生した場合に24時間以内にアラートを送信できる監視システムを構築するための手順を体系的に取りまとめる。

成果の内容・特徴

  • ソーラーポンプと監視システムの機器構成の一例を図1に示す。
  • 現地の状況は多様であり、用いるICTも多様かつ変化が早く、汎用的な仕様を制定しても早期に陳腐化しやすい。そのため、本手順ではパッケージ化した技術の提案ではなく、システムの構成や機材の選択肢と選定の考え方を取りまとめ、既発行のソーラーポンプ設置マニュアルに追加する。これによりユーザーが現地の状況や自身の事情などに合わせたシステムを導入することができるとともに、技術の変化にも対応できる。また、マルドリ方式のためのソーラーポンプの遠隔監視以外への応用も可能である。
  • 使用する機材は市販品を基本とし、IT機器や電気機器などの販売業者より購入できる。クラウドサービスなども一般供用されているものの利用を基本とする。
  • 水圧や流量のセンサー類は高価なので使用を極力避け、ヘッドタンクの水深を検知する水位センサーだけを用いる。その他はバッテリー電圧などの、電気的に簡単に検出できる情報を監視する。
  • 電源は、ソーラー発電を利用することを基本とするが、商用電源の利用が可能な場合は利用する。
  • システムの構築手順の概要を図2に示す。マニュアルでの記述は、これらの手順を高度な専門知識を用いることなく行えるようなものとする。

成果の活用面・留意点

  • マルドリ方式やその他の栽培のためにソーラーポンプを利用している生産者が利用できる。
  • 利用者自身による設置を基本とするため、電気やコンピュータ関係の基本的な知識が必要となる。一般的な機器構成では設置作業に必要な資格はない。
  • 公衆回線と接続する機能を活用することにより、他の監視制御技術の導入も可能となる。
  • 導入に関する参考情報を、ソーラーポンプ設置マニュアルに関連する情報と併せてインターネット上で取得することができる。

具体的データ

図1 ソーラーポンプと監視システムの機器構成の一例,図2 監視システム設置手順の概要

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(28補正「経営体プロ」)
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:島崎昌彦、向井章恵
  • 発表論文等:
    • Shimazaki M. et al.(2016)JARQ. 50(4):301-306
    • 島崎 (2019) 農研機構研究報告1:55-60