水田転換畑の保水量を推定する水収支モデルのパラメータ選定方法

要約

水田転換畑において圃場条件下で生じる土壌水分量(保水量)は、降雨後24時間ではpF1.5のときの体積含水率より大きいことが多く、乾いてもpF3.0のときの体積含水率程度である。これらを反映した水収支モデルを用いることにより、精度良く保水量の推定が行える。

  • キーワード:水田転換畑、保水量、農業気象データ、水収支、灌漑スケジューリング
  • 担当:農村工学研究部門・農地基盤工学研究領域・水田整備ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

水田転換畑は普通畑と比べて湿害や干害を受けやすいため、高収益作物の栽培には、より高度な水分管理が求められる。これまでに、水田転換畑を対象に単純な水収支モデル(バケツモデル)を用いた気象データを基にした土壌水分量の推定法がいくつか提案されているが、最大保水量を圃場容水量(pF1.5の体積含水率)、最小保水量を永久しおれ点(pF4.2の体積含水率)に設定するものが多い。しかし,わが国の水田転換畑では降雨がある程度期待できるうえ、土性が粘土質である場合や浸透を抑制する耕盤層が存在する場合も多いため、透水性が不良である可能性が高く、バケツモデルのパラメータ(最大保水量と最小保水量)の与え方を検討する必要がある。そこで、本研究では水田転換畑において圃場条件下で生じる土壌水分量(保水量)を測定し、その変動幅を明らかにする。そして,圃場条件下での土壌水分量の変動を反映したパラメータの選定方法を提案する。

成果の内容・特徴

  • 本研究は、水田転換畑の作土層のみを貯水層とするバケツモデルを用いる。インターネット上に公開されている農業気象データ(ここでは、作物気象データベース(MeteoCropDB)を使用)から降水量と蒸発量を取得し、作物係数を用いて蒸発散量を推定する。得られた蒸発散量と降水量をもとに水収支により保水量(単位面積当たりの深さ0~30 cm に貯留される水量、単位 mm)を日単位で推定する(図1左)。降雨後24時間を経過したときの保水量を降雨ごとに求め、その最大値を最大保水量(Vmax)とする。また、最大保水量以上に土壌水分変動を示す降雨(ここでは、10mm以上の降雨)直前の保水量を降雨ごとに求め、その最小値を最小保水量(Vmin)とする(図1右)。
  • 水田転換畑で生じる降雨後24時間の体積含水率は、概してpF1.5のときの体積含水率より大きく、pF1.0のときの体積含水率に近い場合が多い。栽培期間の最小体積含水率は、乾いてもpF3.0のときの体積含水率程度であり、pF4.2のときの体積含水率までは乾燥しない(表1)。
  • 保水量測定に基づくVmaxとVminを用いた場合、保水量の経時変化を良く再現できる(図2)。土壌水分特性曲線から保水量推定モデルの閾値を推定する場合、pF1.0とpF3.0の体積含水率を使うほうがpF1.5とpF4.2の体積含水率を使うよりも、実情に近い推定が行える場合が多い。
  • 灌水の判断指標として保水割合を次のように定義する。
    保水割合
    保水割合が0%になる直前に灌水を行うことで作物に極度の水ストレスがかかるのを回避できる。なお、用いる土壌水分計の違いによる保水割合の算定結果の違いは小さい(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 栽培体系が類似した圃場ごとに1点程度、土壌水分計を設置して対象圃場の最大保水量と最小保水量を選定することにより、灌漑の判断指標(保水割合)は灌漑の自動化を実施する際に活用できる。
  • 下層が比較的透水性が高い圃場では、圃場容水量はpF1.5のときの体積含水率より小さく、乾燥時にはpF3.0の体積含水率より小さくなる場合がある。

具体的データ

図1 農業気象データベースと連携した保水量推定モデルの概要とパラメータの取得方法,表1 圃場試験から得られたパラメータと土壌水分特性の比較,図2  保水量の実測値と推定値の比較例(農村工学部門内のダイズ栽培圃場),図3 異なる土壌水分計で取得したパラメータを元にした灌水の判断指標の算定例(茨城町圃場2のキャベツ栽培圃場)

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2018~2020年度
  • 研究担当者:宮本輝仁、岩田幸良、亀山幸司
  • 発表論文等:宮本ら(2021)農業農村工学論文集、312:II_33‐II_39