農業集落排水汚泥と生ごみの混合メタン発酵にはコバルトの添加が必要である

要約

含水率98~99%の農業集落排水汚泥と生ごみの混合メタン発酵を安定的に行う方法である。農業集落排水汚泥と生ごみにはメタン発酵の微量必須元素であるコバルトの含有率が低いため、無添加では発酵不良になるが、コバルトを添加すると、発酵が安定的に進行する。

  • キーワード:農業集落排水、再生可能エネルギー、資源循環、廃棄物管理、メタン
  • 担当:農村工学研究部門・地域資源工学研究領域・地域エネルギーユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農業集落排水施設では維持管理費削減が課題であり、その大部分を汚泥処理費(63%)が占める。農業集落排水汚泥と地域で発生する生ごみ等の混合メタン発酵と発酵残渣である消化液の液肥利用は、再生可能エネルギー源であるメタンを取り出せ、集排施設の維持管理費削減、地域の廃棄物削減を同時に実現できる有望な解決策である(図1)。しかしながら、メタン発酵は微生物を利用する技術であるため、微生物の基質となる原料の元素バランス(栄養素、微量金属元素等)が崩れると、微生物活性が低下し、発酵が不安定となる。一般的には、必須金属元素は汚泥から十分な量が供給されると言われている。しかし、農業集落排水施設は農村地域に立地すること、汚泥脱水機を有していない施設が多く汚泥の含水率は高め(98~99%)であることから、十分な量の微量金属元素が供給されない可能性がある。そこで、本研究では農業集落排水汚泥を原料としたメタン発酵において、一般的に不足しやすいと言われている微量必須元素であるコバルト(Co)とニッケル(Ni)の必要性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 農業集落排水汚泥の濃縮汚泥(含水率98.4%)と模擬生ごみ(同88.2%)の重量比1:1混合物を原料として、中温条件(37°C)でメタン発酵を行ったところ、標準的な条件である、滞留時間(HRT)30日、VS(有機物)負荷2 g/L/dの条件では、発酵液のpHの低下等の発酵不良状態になり、最終的にガス発生がほぼ停止する(図2a)。
  • ニッケルを添加した場合にはHRT30日条件までは安定した状態を維持するが、原料投入量を増やしてHRTを20日に短縮すると、pHは低下傾向を示す。さらに、HRT15日条件ではpHが急激に低下し、ガス発生は大幅に減少する(図2b)。
  • それに対して、コバルトを添加した場合には、ニッケル添加の有無に関わらず、HRT15日条件でもpHは安定し、原料投入量に対応したガス発生量を維持する。したがって、コバルトの添加が必須であるが、ニッケルは添加を行う必要はない(図2c)。
  • 農業集落排水汚泥中のコバルト濃度は含水率により変動するものの、一般的に本実験に用いた濃度と同程度のオーダーである(表1)。また、汚泥の管理方法により同じ施設でも含水率が97~99.5%まで変動することがあり、それに伴い固形分に含まれるコバルト濃度も変化することから、濃縮汚泥を原料とする限り本研究と同様にコバルトが不足することが懸念される。したがって、コバルトの添加は農業集落排水汚泥を原料としたメタン発酵を安定的に行うために、共通して必要な対策といえる。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、農業集落排水処理施設でメタン発酵を導入する際に活用できる。
  • 汚泥脱水機がない施設を対象としているため、汚泥の含水率は98~99%程度を想定しているが、脱水汚泥(含水率は約85%)を原料とする場合にはコバルトの添加が不要になる場合がある。
  • コバルトは塩化コバルトとして添加し、その添加量は既往の研究を参考に、原料のCODCr1gあたりコバルトとして6.00mgを目安とする。
  • メタン発酵において、鉄(Fe)が不足する場合もあるが、農業集落排水汚泥を原料とする場合、含水率が98~99%程度のものでも必要量が供給される。

具体的データ

図1 メタン発酵技術を活用した汚泥利用システム,図2 農業集落排水汚泥と生ごみの混合メタン発酵におけるpHとバイオガス発生量の推移,表1 本研究で用いた集排汚泥と全国の農業集落排水汚泥の成分

その他

  • 予算区分:競争的資金(科研費)、その他外部資金(資金提供型共同研究)
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:中村真人、柴田浩彦(地域環境資源センター)、折立文子、山岡賢
  • 発表論文等:Nakamura M. et al. (2020) Water Practice and Technology. 15(2):472-481