農地の湛水被害予測と対策に活用する豪雨災害リスク評価システム

要約

全国を5km格子に分割した分布型水循環モデルから算定される河川流量と、降雨の予測情報を基に、15時間先までの農地の豪雨災害リスクを評価する。情報は毎時更新され、危険度の高い地区の事前想定や早期警戒態勢の構築などに役立つ。

  • キーワード:リアルタイム評価、内水リスク、外水リスク、短時間降雨予報
  • 担当:農村工学研究部門・地域資源工学研究領域・水文水資源ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

台風や線状降水帯による豪雨災害が頻発しており、農村地域でも浸水被害が発生している。豪雨が予見された際には、農業用排水施設にも管理者が待機し、河川管理者等と連携を取りながら対応にあたる。ただし、気象情報のみでは農地被害の危険度や発生地区の予測は困難である上、地域の内水と外水(河川)の状況が被害の発生に大きく関係するため、効果的な対策を実施するためには、これらの情報を併せて早期にリスクを把握することが肝要である。しかし、一般的に農業用施設では気象や外水情報を外部からの情報提供に頼る状況である。災害の予兆を早期に察知できると、態勢準備や対策実施までの時間的余裕も生まれる。そこで本研究では、全国域を対象に、分布型の水文モデルと気象庁の短時間降雨予報情報とを用いて農地の豪雨災害リスクをリアルタイムに評価可能なシステムを開発する。

成果の内容・特徴

  • 農地を対象とした豪雨災害リスクを評価するシステムである(図1)。日本全国を5kmメッシュに分割した分布型水循環モデルが、気象庁が配信するレーダー解析雨量および短時間降水予報を毎時受信し、その都度各メッシュの15時間先までの流量を計算する。
  • 豪雨災害には、地域に降った雨量に起因するリスク(内水リスク)と、河川流量の増加に起因するリスク(外水リスク)が関係する。内水リスクの指標は評価時点から過去24時間の累積雨量を、外水リスク指標には評価時点の河川流量の計算値を用いることとし、各メッシュで事前に算定した10年~200年確率等の値を閾値に用いてレベルを判定する。結果を図2のような表に示すことで、リスクとその要因(外水型、内水型等)を視覚的に認識できる。
  • 令和元年度台風19号時の利根川流域を例にしたリスクの時間変化を見ると(図3)、取手地点では雨量はさほど多くなかったものの、上流に降った雨が影響して流量が増加し、外水型の豪雨災害リスクが高まったと評価される。また実際に外水氾濫が発生した越辺川地点では、外水リスクが高まった後に追って内水リスクも高まり、総合的に危険度が高まっていたと評価される。
  • リスク情報の表示画面では、面的な豪雨災害リスクや河川流量および雨量の予測情報等のユーザーに役立つ情報をワンストップで表示することを想定している(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本システムの情報は、農地排水や防災等に係る行政部局、水利施設管理を担う土地改良区、田んぼダム等の多面的機能支払交付金の活動組織等への提供を想定している。
  • 登録者はPC、スマートフォン等でリアルタイムにリスク情報を確認でき、豪雨が予見された際の早期の警戒態勢の構築や、被害回避/軽減等の対応策の事前実施等に役立つ。
  • 本システムを通じて、今後複数の豪雨イベントおよび地域での確認を進め、リスク情報の検証と精度向上に努める。 (図2 リスク評価に用いるマトリックス) (図1 豪雨災害リスク評価システムの概要)

具体的データ

図1 豪雨災害リスク評価システムの概要,図2 リスク評価に用いるマトリックス,図3 豪雨災害リスクの時間変化の評価例(2019年10月12日~10月13日),図4 開発中の情報表示画面のイメージ(令和2年九州豪雨時の例)

その他

  • 予算区分:その他外部資金(PRISM)
  • 研究期間:2018~2020年度
  • 研究担当者:皆川裕樹、吉田武郎、相原星哉、北川巌、工藤亮治(岡山大)、久保田富次郎
  • 発表論文等:
    • 工藤ら(2016)応用水文、28:11-20
    • 皆川ら(2021)応用水文、33:31-40