回帰法による水田内ドジョウ個体数推定

要約

野外実験水田を用いたドジョウ個体数推定に対する回帰法を適用した試験によると、格子状2m間隔の定点配置(計75定点)と、畦畔相当部のみに2m間隔とした定点配置(計40定点)は、それぞれ概数レベルの評価と省力化に有望である。

  • キーワード:水稲、ドジョウ、鳥類、餌資源、DeLury,生きもの調査
  • 担当:農村工学研究部門・水利工学研究領域・水域環境ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

水田に生息するドジョウは鳥類等高次消費者の餌として重要で、その資源量は生態系保全上の関心事項である。しかし、通常ドジョウ資源量の真値は不明で、推定値やデータ取得を含めた推定方法の検証が必要である。そこで、野外実験水田でドジョウ個体数推定を実施、推定値および推定方法の妥当性を検討するとともに簡易的な個体数推定方法の提案に向けて省力化の可能性を明らかとする。

成果の内容・特徴

  • 回帰法は採捕の繰返しにより努力量あたり採捕個体数が減少する性質を利用する個体数推定法である。ここでは、全ての採捕定点(下記3)における総採捕個体数を対象にすることで採捕回間の努力量を揃え、回帰法の一つであるDeLury第1モデルを用いる。
  • 実験水田は、実験圃場内に設けた閉鎖系空間で、波板および防鳥ネットを巻き付けたメッシュパネル計4枚で囲まれる(図1上)。同パネルは、水の出入りのための波板開口部2箇所に対して各々2枚を用い、波板開口部における個体の移出・移入を防ぐものである(図1上)。
  • 実験は何れも水稲作付け中に実施の実験1(2013年)、実験2(2014年)に分けられる。実験1では均一・高密度な定点(図1上)を配置し、実験2では実験1の結果を受け実験水田周縁部(畦畔相当)のみに定点(図1下)を配置し、回帰法の適用と省力化の可能性を検討する。
  • 実験水田では実験1における放流以前に個体の確認はない。実験1の対象個体数は約1,100個体、ヒレ切除を施した実験2の対象個体数は453個体である。採捕作業では、練り餌をお茶パックに封入後金網製ウケ(目合4mm)に入れ、各定点にウケを設置、約24時間経過後全てのウケを回収する。全ての採捕個体は計数後実験水田外に除去する。採捕作業は数日間隔で繰返す。繰返し回数は実験1で7回、実験2で5回である(表1、表2)。
  • 実験1では、概ねの個体数レベルの評価に十分な値を得る(表1)。推定個体数(点推定)は繰返し5回以下では統計的有意性を得るに至らないものの対象個体数に近い値を、6回以上で統計的有意性を得る一方やや下方の値を示す。また、定点を3つの定点群(図1上)に区分、比較すると定点群間に偏りは無く(図2)、実験2のような省力化の検討価値を支持する。
  • 実験2では実際に縁辺部とくに実験水田に踏み入らずウケを設置できる範囲に定点配置している。推定個体数(点推定。表2)は対象個体数の47~57%で、実験1における周縁部定点数(36)÷全定点数(75)×100=48%に近い値である。実験1の各定点が各々2m四方の面積をカバーすると仮定すると実験2でもそれと同程度の面積をカバーしたものと考えられる。
  • 実験2のさらなる定点数削減可能性を検討するため、計22定点、計12定点の2水準で解析すると、推定個体数は計40定点のそれに対して各々40~48%、18~22%を示す(表2)。定点数の割合(各々55%、30%)から約10ポイント小さい値であるが、このことは実験1から2にかけて見られた傾向と同様で、概ねの個体数レベルの評価には十分な検討価値が見出せる。

成果の活用面・留意点

  • 個々の定点がカバーする範囲やその有無は、現状では仮定に基づいている。

具体的データ

図1 実験水田および定点配置の概要,図2 各定点群の採捕個体数比率(実験1),表1 推定個体数(実験1),表2 推定個体数と省力化(定点数削減)の検討(実験2)

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
  • 研究期間:2013~2019年度
  • 研究担当者:竹村武士、嶺田拓也、渡部恵司、小出水規行、森淳
  • 発表論文等:
    • 竹村ら(2019)農業農村工学会論文集、309:II_107-II_112
    • 竹村ら(2018)農業農村工学会論文集、307:II_85-II_90