大雨時の濁水による河川での放射性セシウムの流出を検知するモニタリングシステム

要約

農業用水の水源となる河川において、河川水中の放射性セシウムによるガンマ線を現地で連続的に観測するシステムである。現地採水による分析結果を補間して連続的な放射性セシウム濃度の変化を把握できるため、大雨時の濁水による高濃度の放射性セシウムの流出の検知に活用できる。

  • キーワード:農業用水、放射性セシウム、連続モニタリング、ガンマ線スペクトロメトリ
  • 担当:農村工学研究部門・地域資源工学研究領域・地下水資源ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

東京電力福島第一原子力発電所の事故によって放射性物質が降下した流域において、水田への放射性物質の流入を抑制するために農業用水を対象としたモニタリングが不可欠である。これまで、農業用水の水源となる河川では定期的な採水によって放射性セシウム濃度が把握されてきた。しかし、大雨時の濁水による放射性セシウムの流出を捉えるためには、連続的なモニタリングが不可欠である。そこで、河川水中で放射性セシウムによるガンマ線を直接測定し、放射性セシウムによるガンマ線スペクトルのピーク計数を連続的に取得するシステムを開発する。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、NaI(Tl)シンチレーション検出器、光電子増倍管(PMT)およびロガー内蔵のマルチチャンネルアナライザ(MCA)によって構成される(図1)。これらを防水容器に封入して設置することにより、河川水を対象としたガンマ線スペクトルの連続取得が可能になる(図2)。
  • 屋外測定では温度の影響によってガンマ線エネルギーとMCAのピークチャンネルとの関係が変化するため、一般に屋内測定で適用されるチャンネル固定によるピーク計数は正確さを欠くが、本システムでは放射性セシウム(137Cs, 134Cs)に特徴的な2つのピーク間の極小値を探索して両側に接線を引く方法を採用することによってピーク計数の精度が向上する(図3)。
  • 河川水が清澄であれば、水位が上昇すると水による周囲からの放射線の遮蔽効果が大きくなるため、放射性セシウムのピーク計数は低下する。しかし、大雨時に河川水が濁水となり放射性セシウム濃度が上昇すると、水位上昇によって低下しつつあったピーク計数が上昇に転じる(図4)。これを検知することで、大雨時の高濃度の放射性セシウムの流出を把握することが可能となる。
  • これまで、河川水中の放射性セシウム濃度を把握するためには現地で採水する必要があった。この方法によって、現地採水による分析結果を補間して連続的な濃度変化を直接的に把握できるとともに、将来的には遠隔モニタリングによる用水管理も可能となる。

成果の活用面・留意点

  • 本手法は、高濃度の放射性セシウムの流出を捉える手法である。低濃度の放射性セシウムの流出の検知や放射性セシウム濃度の推定のためには、採水試料中の放射性セシウム濃度の分析値との比較や、河川水位と河床の形状を考慮した放射線遮蔽シミュレーションなどの追加の解析が必要である。
  • 本手法では、自然界に存在する222Rnの子孫核種である214Biによるガンマ線が解析対象の放射性セシウムのピーク計数に影響する可能性がある。このため、河川水中の222Rn濃度が上昇しうる場合は注意が必要である。
  • 防水容器は、十分な強度がある岩盤に固定するなど、出水時に破損したり流失したりしないように対策をする必要がある。また、NaI(Tl)シンチレーション検出器やMCAは湿気に弱いため、容器内に吸湿剤を入れるなどの対策が必要である。

具体的データ

図1 システムの構成,図2 現地での設置状況,図3 ピーク計数の算定方法,図4 観測されたピーク計数の変化とその解釈

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(動態解明、営農再開)
  • 研究期間:2014~2020年度
  • 研究担当者:吉本周平、土原健雄、白旗克志、石田聡
  • 発表論文等:
    • 石田ら「放射能測定装置」特開2019-066393(2019年4月25日)
    • 吉本ら(2013)農村工学研究所技報、214:175-196