ダイコンのグルコラファサチン欠失性を選抜できるDNAマーカー

要約

ダイコンの主要なグルコシノレートであるグルコラファサチンは加工品の黄変や臭いの原因となる。開発したグルコラファサチン欠失性を判別できるDNAマーカーの利用により、黄変や臭いが発生しないダイコン品種の育成が容易になる。

  • キーワード: グルコシノレート、辛み成分、黄変、たくあん臭、選抜マーカー
  • 担当: 野菜花き研究部門・野菜育種・ゲノム研究領域・アブラナ科ユニット
  • 代表連絡先: 電話 029-838-6574
  • 分類: 普及成果情報

背景・ねらい

ダイコン成分のグルコラファサチン(4-メチルチオ-3-ブテニルグルコシノレート)はダイコンの主要グルコシノレートであり、加工・保存過程において辛み成分や黄色成分、たくあん臭の原因物質に化学変化する。一部の大根加工品では、黄変やたくあん臭が敬遠されることから、遺伝的にグルコラファサチンを欠失したダイコンが望まれている。そこで、本研究ではグルコラファサチン生合成に関与する遺伝子を同定するとともに、その機能欠損の原因となる変異を検出できるDNAマーカーを開発し、黄変やたくあん臭のないダイコン品種の育成の加速を促す。

成果の内容・特徴

  • GLUCORAPHASATIN SYNTHASE 1(GRS1)はグルコラファサチンの生合成に関与する酵素をコードし、2-oxoglutarate dependent dehydrogenaseと相同性を有する遺伝子である。
  • グルコラファサチンを欠失している「だいこん中間母本農5号」のGRS1は、第1エキソンにLTR型レトロトランスポゾンであるTy1/copia様配列の挿入変異を有しており、正常なタンパク質をコードしていない(図1)。
  • GRS1への挿入変異の有無は、3種のプライマー(Rs023、Rs024、Rs074)を用いた1回のPCRで検出できる。 Rs023: 5'-CTCCGAGTATTTTAGAAAGCCTGA-3'(共通Fwプライマー)
    Rs024: 5'-CTAATCCCAAAGCCTCTGATAGAA-3'(野生型GRS1検出Rvプライマー)
    Rs074: 5'-GGTTGGGATAGCTTGTCCTG-3'(変異型検出Rvプライマー)
    野生型ではRs023とRs024に由来する714bpの増幅産物が、「だいこん中間母本農5号」ではRs023とRs074に由来する588bpの増幅産物が検出される(図1、2)。
  • 「だいこん中間母本農5号」を育種素材として利用した場合、本DNAマーカーを用いることで反復親の遺伝的背景によらず確実にグルコラファサチン欠失個体を選抜することができる(表1)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:ダイコンを対象とする国内外の育種研究機関、種苗会社等
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:本選抜技術を用いた実用品種「悠白」と「サラホワイト」が品種登録されている他、選抜法に関する特許が公開されている。本特許は2社の国内種苗会社へ仮許諾済みであり育種事業に利用されている。現在、さらに複数社と実施契約手続きを進めており、今後も許諾件数が増加する見通しである。
  • その他:本遺伝子の塩基配列情報はDDBJに登録されている(LC077856)。「だいこん中間母本農5号」のグルコラファサチン欠失性は単因子劣性で遺伝する(2015年度普及成果情報)。

具体的データ

図1 GRS1遺伝子の構造,図2 挿入変異を検出するDNAマーカー

その他

  • 予算区分: 委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間: 2013~2016年度
  • 研究担当者:
    柿崎智博、石田正彦、吹野伸子、小原隆由、板橋悦子、Zou Zhongwei(東北大)、Li Feng(東北大)、北柴大泰(東北大)、西尾剛(東北大)
  • 発表論文等:
    1)柿崎ら「機能欠損型グルコラファサチン合成酵素遺伝子及びその利用」特開2016-086761(2016年5月23日)
    2)Kakizaki T. et al. (2017) Plant Physiology 173(3):1583-1593