ネギの抽だい期を支配するQTL

要約

ネギの抽だい期に関与する主要な量的形質遺伝子座(QTL)は、連鎖群Chr. 1aおよびChr. 2a上に存在する。ネギ品種「TA-4」の抽だいを遅らせる主要なQTLは、Chr. 2a上に存在し、「長悦」の晩抽性QTLと近い位置にある。

  • キーワード:ネギ、抽だい、QTL解析、DNAマーカー
  • 担当:野菜花き研究部門・野菜育種・ゲノム研究領域・ネギ属ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6574
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ネギでは、春から初夏にかけて抽だいにより商品価値が著しく低下するため、周年安定生産のためには晩抽性品種の育成が重要である。ネギは一定の段階に成長した植物が低温に感応して花芽分化する緑植物春化型植物であり、品種による抽だいの早晩性は、低温要求量の違いが反映するとされているが、その遺伝様式についてはこれまで明らかにされていない。そこで、抽だい期の異なる系統の交雑集団を用いて、抽だいの早晩性を支配するQTLを明らかにし、晩抽性選抜マーカーの開発に資する。

成果の内容・特徴

  • 台湾から導入した極早期抽だい性品種「北葱」の自殖系統Kiと晩抽性品種「長悦」の自殖系統Cとの交雑によるF2およびF3系統群(KiC集団)を用い、露地栽培における抽だい期のQTL解析を行うと、第1染色体連鎖群Chr. 1aおよび第2染色体連鎖群Chr. 2aに主要なQTLがそれぞれ1個ずつ検出される(図1、qBlt1aおよびqBlt2a)。
  • 同集団において、qBlt1aに連鎖するAFB11E05マーカー座およびqBlt2aに連鎖するAFAT01H05マーカー座(図1)の遺伝子型がC(晩抽性)ホモ型もしくはヘテロ型の個体は、2座についてKi(早抽性)ホモ型の個体と比べて抽だい期が有意に遅い(表1)。
  • 一般的なネギの抽だい期を示す「ねぎ中間母本農1号」の自殖系統Sa03と極晩抽性を有する短葉性ネギ品種「TA-4」の自殖系統T03との交雑によるF2およびF3系統群(SaT03集団)を用いたQTL解析では、qBlt2aのみが抽だい期の主要QTLとして検出される(図1)。本QTLの連鎖地図上の位置は、KiC集団のqBlt2aと共通性が高い。
  • SaT03集団においてqBlt2aに連鎖するAFAT10E12マーカー座の遺伝子型がT03(晩抽性)ホモ型個体の平均抽だい日は、ヘテロ型、Sa03ホモ型個体と比べて有意に遅い(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 見いだされたQTLの連鎖マーカーは、種々の品種・系統との交配後代における効果を解析することにより、晩抽性選抜マーカーの開発に活用される。
  • 「TA-4」(品種登録出願番号第31279号)は、短葉性ネギF1品種「こいわらべ」および「すずわらべ」の親品種であり、晩抽性の育種素材としても利用できる。
  • 両集団の連鎖地図に位置づけられたマーカーのプライマー配列等は、野菜DNAデータベースVegMarksおよび塩基配列データベースDDBJで公開している。
  • SSRマーカーの多型判別には、DNAシーケンサーを用いる必要がある。

具体的データ

図1 KiC集団およびSaT03集団の連鎖地図と抽だい期のQTL?表1 KiC集団に見いだされたqBlt1aおよびqBlt2aの近傍マーカーAFB11E05とAFAT01H05のF2における遺伝子型と抽だい期の関係?表2 SaT03集団に見いだされたqBlt2aの近傍マーカーAFAT10E12のF2における遺伝子型と抽だい期の関係

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2007~2016年度
  • 研究担当者:若生忠幸、塚崎光、谷口成紀(JSPS特別研究員)、山下謙一郎、伊藤真一(山口大)、執行正義(山口大)
  • 発表論文等:Wako T. et al. (2016) Euphytica 209:537-546