上下が相称の花をつけるトレニアの変異体

要約

トランスポゾンの転移が活性化したトレニアの系統である雀斑の自殖後代から、ベゴニアのように上下が相称の花をつける変異体が得られている。この変異体は花の基本構造が変化しているため、育種素材として花形のバリエーション拡大に有用である。

  • キーワード:トレニア、新規花形、トランスポゾン、放射相称、左右相称
  • 担当:野菜花き研究部門・花き遺伝育種研究領域・品質育種ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6574
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

夏季の花壇用花きとして親しまれているトレニアは、草姿がコンパクトにまとまって長期間開花し続け、耐暑性が強く、日向から日陰まで幅広い光条件に適応する優れた特性を持つ。しかし、観賞性の観点からは、花色のバリエーションは比較的豊富であるものの、花の形と大きさのバリエーションが小さく、利用場面が限定されてしまうことが欠点である。一方、トランスポゾンの転移が活性化した雀斑(そばかす)系統の自殖後代では、変異体が高い確率で得られる。そこで、この系を利用して自殖後代を大量にスクリーニングすることにより、観賞性関連形質のバリエーション拡大とともに、その分子機構の解明を目指している。そのような変異体のひとつとして、左右相称花をつけるトレニアから、ベゴニアのような上下が相称の花をつける新規変異体(ベゴニアと命名)が得られている。本研究では、ベゴニア変異体の育種素材としての特性と変異の分子機構を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 雀斑系統の自殖後代から得られたベゴニア変異体は、ベゴニアのような上下が相称の花をつける(図1)。上側および下側の花弁はともに淡い青紫色、側方の花弁は濃い青紫色で、正常型よりもやや大輪となる。また、正常型では、下側花弁に黄色の蜜標が存在するが、ベゴニア変異体では存在しない。
  • ベゴニア変異体は正常な稔性を持ち、種子が容易に得られる。ベゴニア形質は劣性1因子支配の形質であり、安定に遺伝する(表1)。復帰変異は認められないが、低い確率で正常型の左右相称花をつけることがある。
  • 花の向背軸(上下の位置関係)の決定に関わり、正常型では上側花弁で特異的に発現する転写因子遺伝子TfCYC13およびTfRAD1の発現が、ベゴニア変異体では下側花弁でも高まっている(図2、TfRAD1のみ表示)。これにより、下側花弁が上側花弁に変換して、ベゴニアの花のような上下が相称の外観を呈する。
  • 一方で、側方花弁では、これらの遺伝子の発現量は正常型と同等であり、花弁の変換も起こらない(図2)。
  • ベゴニア形質は、上側花弁の着色の有無や花弁の形など、既存品種に見られる変異と組み合わせることにより、花のバリエーションをより効果的に拡大できる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • ベゴニア変異体は、トレニアの花の基本的な構造が変化した育種素材として、花形のバリエーションを効果的に拡大することができる。
  • 花の相称性を制御する分子機構解析のための研究材料として利用できる。
  • 復帰変異は起こらないものの、低い確率で正常型の左右相称花をつける場合があることに留意する必要がある。

具体的データ

図1 トレニアの正常型とベゴニア変異体の花?表1 ベゴニア形質の遺伝解析?図2 正常型とベゴニア変異体(変異型)の花器官におけるTfRAD1の発現?図3 ベゴニア変異体と市販品種(上段左)の交雑後代に現れた花の例

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2012~2016年度
  • 研究担当者:西島隆明、仁木智哉
  • 発表論文等:Niki et al.(2016)Hort. J. 85(4):351-359