ジャスモン酸メチルは蕾段階で収穫したトルコギキョウの着色ムラを改善し、開花を促進する

要約

大輪八重咲きのトルコギキョウでは、蕾段階で早期に収穫を行うと、蕾の際の緑色が開花後まで残る着色ムラと呼ばれる現象が生じる。ジャスモン酸メチルの曝露処理は着色ムラを改善するとともに開花までの日数を短縮する。

  • キーワード:ジャスモン酸メチル、収穫後処理、早期収穫、着色不良、トルコギキョウ
  • 担当:野菜花き研究部門・花き生産流通研究領域・品質制御ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6574
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

トルコギキョウは、近年の日本での育種によって、大輪八重化が進んだ切り花品目である。また、日本国内では、花芽整理などの高度な栽培技術により高品質の大輪八重咲きトルコギキョウが生産されており、海外からも高い評価を受けている。大輪八重咲きトルコギキョウでは開花後の収穫が一般的とされる。蕾段階で早期に収穫を行うと、開花後まで蕾の際の緑色が残る着色ムラと呼ばれる着色不良現象が生じることがある。蕾段階で早期に収穫を行うことが可能となれば、輸送時の積載本数の増加によるコスト削減や花弁の傷つき防止、出荷日の調整などの利点が得られる。本研究では、蕾段階で収穫した大輪八重咲きのトルコギキョウにおいて、着色ムラを改善する処理を検討する。

成果の内容・特徴

  • 大輪八重咲きトルコギキョウ「ボヤージュ(2型)ブルー」の先端部が開き始めた緑色の蕾を花茎5 cmで切り戻し、その日のうちに実験に用いる。各蕾はGLA溶液(1%グルコース、ケーソンCG 0.5 mL/L、硫酸アルミニウム 50 mg/L)を含む試験管に挿した後、連続光照射(PPFD 80 μmol/m2/s)下において、20、25、30および35℃の温度条件で保持しても、着色ムラは改善されない(データ略)。
  • 各蕾を1%または3%のグルコースまたはスクロースを含むLA溶液(ケーソンCG 0.5 mL/L、硫酸アルミニウム 50 mg/L)に挿し、30℃一定、連続光照射(PPFD 80 μmol/m2/s)下で保持しても、着色ムラは改善されない(データ略)。
  • 各蕾はGLA溶液を含む試験管に挿し、9 Lの密閉アクリルチャンバー内で曝露処理に用いる。曝露処理にはMeJA:エタノール(1 : 9)を含むろ紙を用いる。チャンバー内のMeJA濃度は4 μMとする。環境条件は30℃一定、連続光照射(PPFD 95 μmol/m2/s)とし、曝露処理は開花まで行う。対照区はエタノールのみの曝露処理とする。MeJAの連続曝露処理によって、着色ムラが改善されるとともに、開花までの日数が早まる(図1 A、B、表1)。
  • 各蕾を0(対照区)、1および2日間のMeJAの曝露処理に用いる。処理条件および環境条件は3と同様とする。曝露処理後はエタノールのみの曝露に切り替え、開花まで調査を行う。花弁の着色ムラは1および2日間のMeJA曝露処理で改善され、開花までの日数も短縮する(図1 C-E、表2)。
  • MeJAによる着色ムラ改善の効果については画像解析を用いて、定量的に評価することができる。スキャナー(CanoScan 9000F)を用いて開花した個体の全花弁の画像データを取り込む。取り込んだ画像データにおいて、花弁基部の黒色部およびその周囲3 mmを取り除く。Photoshop Lab表色系のa値が127以下のピクセルを緑色とし、全ピクセルにおける緑色を示すピクセルの割合を着色不良面積率として示すことが出来る(図2)。
  • 高速液体クロマトグラフィーを用いた分析では、着色ムラ花弁の緑色部(a値=120)からアントシアニンは検出されず、薄紫および紫色部(それぞれa値=130、145)からはアントシアニンが検出されることから、MeJAは蕾段階で収穫したトルコギキョウの花弁において、少なくともアントシアニンの合成に関与している可能性が示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は蕾段階で早期に収穫した切り花の開花および着色促進技術の開発につながる知見である。
  • 本試験では、花茎5 cmで切り戻した小花を用いているが、切り花においてもMeJAによる着色ムラ抑制および開花促進の効果が期待出来る。
  • 他の花色品種においても、着色ムラが生じる場合にはMeJAは有効である。
  • 試験に用いるスキャナーについては取得した画像データと実物の間で見られる色彩の誤差および各取得画像の間で見られる差に留意する必要が有る。色見本を用い、予備的にこれらを明らかにする。

具体的データ

図1 ジャスモン酸メチル(MeJA)の曝露処理が蕾切りトルコギキョウの花弁の着色におよぼす影響?表1 ジャスモン酸メチル(MeJA)の連続曝露処理が蕾段階で収穫したトルコギキョウの開花と着色におよぼす影響?表2 ジャスモン酸メチル(MeJA)の曝露期間が蕾段階で収穫したトルコギキョウの開花と着色におよぼす影響?図2 画像解析を用いた花弁の着色ムラの定量的評価

その他

  • 予算区分:その他外部資金(地域再生)
  • 研究期間:2013~2016年度
  • 研究担当者:水野貴行、福田直子、湯本弘子
  • 発表論文等
    1)Mizuno T. et al. (2017) Hort. J. 86(2) : 244-251
    2)湯本ら「花きの着色ムラ防止剤」 特願 2015-223570(2015年11月19日)