トマト品種系統間でも多型検出が容易なゲノムワイドSSRマーカー

要約

トマトゲノム配列を元に開発した2,510個のSSR(単純反復配列)マーカーは、多型頻度やアリル出現数に優れることから、品種系統間交雑の後代集団における遺伝・量的形質遺伝子座(QTL)解析のための連鎖地図や、選抜マーカーの作成に有効である。

  • キーワード:トマト、トマトゲノム、単純反復配列、SSR
  • 担当:野菜花き研究部門・野菜生産システム研究領域・生産生理ユニット
  • 代表連絡先:電話050-3533-1833
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

品種育成現場においては、遺伝的に極めて近縁な系統同士の交雑も日常的に行われている。トマトの品種系統間では一般にDNA多型が得にくいため、マーカー利用選抜においては、マーカーの中でも多型性の高いSimple Sequence Repeat(SSR)の利用が非常に効果的である。またSSRマーカーは、多系交雑集団におけるマルチアリル構成を反映させることも可能であることから、遺伝学的にも応用範囲の広いマーカーといえる。しかしながらトマトでは、多型頻度が高く品種系統間でも利用可能なSSRマーカーセットの情報が非常に限られている。そこで、トマトゲノム配列情報を活用して多型頻度の高いSSRマーカーを大量に作出し、マーカー利用選抜や遺伝・QTL解析における基盤情報整備を図る。

成果の内容・特徴

  • トマト種間交雑に由来する基準F2集団(Tomato-EXPEN2000)について作成された高密度連鎖地図(Shirasawa et al., 2010、http://solgenomics.net/)の全領域を10cM毎に区切り、その領域に座乗する発現遺伝子マーカーの元配列に対応するゲノム領域を対象にSSR配列を抽出し、それらのうち主要繰り返し単位の反復数が10-30であるSSRのみを選抜することにより開発したゲノムワイドSSRマーカーの総数は2,510個である。
  • 開発した2,510個のSSRマーカーのうち、トマトF1品種「Geronimo」(De Ruiter Seeds社)および「桃太郎8」(タキイ種苗株式会社)間で多型(分類0-7、表1)を示すマーカーは、1,210個(多型頻度は0.48)、供試した既存SSRマーカー2,719個のうち多型を示すマーカーは、189個(多型頻度は0.07)であり、開発マーカーの多型頻度は既存マーカーに比べて高い。
  • 多型を示すマーカーのうち、開発したマーカーから185個、既存マーカーから37個を選抜し、上記品種を両親とするF1(G1F1n=240)およびF2(G1F2、n=360)集団を用いて作成した連鎖地図(GMF2地図)は、トマトの染色体数12に収束し、ゲノム全体(SL2.50、http://solgenomics.net/)の97%を網羅している(図1)。
  • G1F2集団は、F1品種間の交雑に由来する多系交雑集団のため、マーカーアリルは最大4個出現する。出現アリル数が多い(本集団の場合はアリル数3以上の)マーカーは多系交雑集団を用いたQTL解析時の精度向上において極めて重要であるが(表1、分類4-7のマーカーが該当)、供試した開発マーカーから最終的に選抜された数は99個であり、既存マーカーから選抜された数(13個)よりも多い(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 開発したSSRマーカー情報は、DNAマーカーデータベース(VegMarks)において公開しており、トマトの遺伝・QTL解析、マーカー利用選抜、品種系統識別に利用できる。
  • マーカー遺伝子型の取得では、2塩基程度のDNA断片長の差異を検出できる高精度な機器を用いる必要がある。
  • GMF2集団の片親品種「Geronimo」は、2017年現在国内では市販されていない。

具体的データ

図1 トマトF1品種「Geronimo」および「桃太郎8」間交雑由来の分離集団、G1F1(n=240)およびG1F2(n=360)を用いて作成された連鎖地図(GMF2地図);表1 GMF2地図に座乗したマーカーの分類と数;

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2008~2017年度
  • 研究担当者:大山暁男、白澤健太(かずさDNA研)、松永啓、根来里美、宮武宏治、山口博隆、布目司、岩田洋佳(東大)、福岡浩之、林武司
  • 発表論文等:Ohyama A. et al.(2017) Theor. Appl. Genet. 130:1601-1616