新規土壌還元消毒を主体としたトマト地下部病害虫防除体系マニュアル

要約

圃場の深層部に分布するトマト土壌病害虫の防除に有効な新規資材を用いた土壌還元消毒および高接ぎ木栽培と組み合わせた防除体系の特徴と利用法を解説したマニュアルである。本体系は、トマト土壌病害虫による収穫量減少を回復させ、生産者の農業所得改善に有効である。

  • キーワード:トマト、土壌還元消毒、糖含有珪藻土、糖蜜吸着資材、土壌病害虫、高接ぎ木
  • 担当:野菜花き研究部門・野菜病害虫・機能解析研究領域・病害ユニット
  • 代表連絡先:電話 050-3533-4624
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

トマト栽培は近年の産地化、施設化に伴う連作により、青枯病や線虫等の土壌病害虫が発生し安定生産にとって大きな問題となっている。土壌病害虫の防除対策として一般的にはクロルピクリン剤やD-D等の土壌くん蒸剤による土壌消毒が行われている。土壌くん蒸剤は環境及び処理者への負担が大きいことや圃場の深層部に分布する青枯病菌や線虫等に対する消毒効果が不十分なことから新たな消毒技術の開発が求められている。近年、易分解性の有機物を利用した土壌還元消毒が開発され、環境にやさしい消毒法として普及が進んでいる。しかしながら、米ぬかやフスマを用いた土壌還元消毒は深層部まで消毒効果が届かないことや、糖蜜等の液体の有機物を用いた還元消毒は深層部の消毒効果が高いものの、重労働である糖蜜の希釈作業や液肥混入器の利用等が普及の妨げとなっている。そこで、新規資材を用いた処理作業が容易で圃場の深層部まで消毒効果の高い土壌還消毒技術を確立し、本技術を主体としたトマト地下部病害虫防除体系をマニュアルとして提示する。

成果の内容・特徴

  • 本マニュアルは、新規土壌還元消毒資材の特性、処理方法、青枯病菌や線虫等に対する殺菌・殺虫効果、体系防除および栽培管理等を解説した「技術版」と全国の普及指導に活用する「地域版」(北日本、関東、北信越、東海、西日本)から構成される(図1)。
  • 新規土壌還元消毒資材の糖含有珪藻土は、アミノ酸の工業生産において糖化液を濾過する工程で産出される副生物であり、糖蜜吸着資材は、大豆皮にサトウキビ糖蜜を吸着させた家畜飼料である(図2)。両資材は、それぞれ粉状および粒状のため取り扱いが容易である。
  • 新規資材を用いた土壌還元消毒は、慣行のフスマ、米ぬかと同様に圃場に資材を散布、混和するため処理が容易であり、圃場の深層部まで還元化する(図2)。処理時期は施設ハウス内が高温になり圃場の深さ40~60cmで30°C以上の地温が確保できる夏期(6-9月)が効果的である。
  • 消毒後の圃場で栽培したトマトは、青枯病の発生(図3)および線虫による根こぶの形成(データ略)がほとんど認められず、その防除効果は2作以上持続する(図3)。また、高接ぎ木栽培と組み合わせた防除体系により、青枯病の発病抑制効果が安定し、その持続性を高めることができる(データ略)。
  • 本防除体系は、青枯病や線虫等の土壌病害虫に起因する収穫量減少を回復させ、生産者(特に慣行防除が効かなくなってきている地域)の農業所得改善に有効である(表1)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:施設トマト生産者、普及指導機関。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国、施設トマト圃場他500ha。
  • その他:糖含有珪藻土は味の素ヘルシーサプライ(株)から、糖蜜吸着資材は(株)サンピラーズ(商品名「オマラス95」)から販売されている。また、高接ぎ木苗は、ベルグアース(株)(商品名「高接ぎハイレッグ苗」)から購入できる。

具体的データ

図1 新規土壌還元消毒を主体としたトマト地下部病害虫防除体系マニュアル「技術版」と「東海地域版」,図2 新規資材(上左:糖含有珪藻土、上右:糖蜜吸着資材)を用いた土壌還元消毒のイメージ(下),図3 糖含有珪藻土(1t/10a)を用いた土壌還元消毒の青枯病に対する防除効果(新潟県),表1 各地域における農業所得改善のモデル事例

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2014~2019年度
  • 研究担当者:
    中保一浩、井上康宏、植原健人、井原啓貴、李哲揆(理研)、飯田敏也(理研)、大熊盛也(理研)、三澤知央(道総研道南農試)、青木元彦(道総研道南農試)、角野晶大(道総研道南農試)、加賀友紀子(青森県産技セ野菜研)、新藤潤一(青森県産技セ野菜研)、福田寛(千葉県農林総研セ)、鐘ヶ江良彦(千葉県農林総研セ)、武田藍(千葉県農林総研セ)、國友映理子(千葉県農林総研セ)、大木浩(千葉県農林総研セ)、矢内浩二(千葉県農林総研セ)、木村美紀(千葉県農林総研セ)、佐藤侑美佳(千葉県農林総研セ)、前田征之(新潟県農総研)、川部眞登(富山県農総セ)、吉田佳代(石川県農総セ)、松田絵里子(石川県農総セ)、八尾充睦(石川県農総セ)、村元靖典(岐阜農技セ)、渡辺秀樹(岐阜農技セ)、棚橋寿彦(岐阜農技セ)、林佑香(和歌山県農試)、大谷洋子(和歌山農試)、江口武志(熊本県農研セ)、山﨑尚美(熊本県農研セ)、坂本幸栄子(熊本県農研セ)、本田裕貴(熊本県農研セ)、古家忠(熊本県農研セ)、行徳裕(熊本県農研セ)、武田泰斗(味の素)、五十嵐大亮(味の素)、下野雄介(日本総研)
  • 発表論文等: