キュウリ黄化えそ病抵抗性を有するキュウリ「緑夏」
要約
「緑夏」(りょっか)は、キュウリ黄化えそ病に対して"中程度"の抵抗性を有するF1品種である。果実品質は既存のハウス栽培用品種と同程度に優れ、無発病時の収量も変わらない。「緑夏」はキュウリ黄化えそ病が発生する地域において減収抑制を示し安定生産に寄与する。
- キーワード:キュウリ、黄化えそ病、メロン黄化えそウイルス、ミナミキイロアザミウマ、抵抗性品種
- 担当:野菜花き研究部門・野菜育種・ゲノム研究領域・ウリ科・イチゴユニット
- 代表連絡先:電話 050-3533-1833
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
キュウリ黄化えそ病(以下、黄化えそ病)は、九州、四国、東海および関東地域のキュウリ産地に深刻な被害を及ぼし、その発生地域は拡大傾向にある。本病はメロン黄化えそウイルス(Melon yellow spot virus;MYSV)によるウイルス病で、ミナミキイロアザミウマによって媒介され、症状の異なる複数のウイルス株が確認されている。MYSVに感染したキュウリは葉にモザイク、退緑斑点、黄化およびえそなどの症状を示す。加えて、一部の果実にも退緑斑点やモザイクなどの症状を生じ、収量低下と商品果率低下が問題になる。本病の防除では媒介虫であるミナミキイロアザミウマを駆除することが最も重要であるが、それを完全に防除することは容易ではないため、生産者から抵抗性品種の育成が強く求められている。そこで、黄化えそ病抵抗性を有するキュウリ品種を育成する。
成果の内容・特徴
- 「緑夏」(図1)は、黄化えそ病抵抗性を有する「きゅうり中間母本農7号」と(株)埼玉原種育成会の罹病性固定系統H、SおよびGを交雑して選抜・自殖を繰り返して得られた固定系統ASCP-1を種子親とし、同様に「きゅうり中間母本農7号」と(株)埼玉原種育成会の罹病性固定系統Iを交雑して得られた固定系統ASCP-3を花粉親とするF1品種である(図1)。
- 「緑夏」のキュウリ黄化えそ病発病評点は「きゅうり中間母本農7号」に 比べやや高く(表1)、MYSV-FuCu05P株を病原とするキュウリ黄化えそ病に"中程度"の抵抗性を有する。MYSVを接種した罹病性品種「極光607」では、葉に激しい黄化・えそ症状が認められるが、「緑夏」では軽い黄化症状が認められる程度である(図2)。
- MYSVを接種していない「緑夏」の収量性は、「極光607」と"同程度"である(表2)。「緑夏」はMYSVに感染した場合の減収を抑制できるため、収量は「極光607」に比べて大幅に"多く"なる。
- 「極光607」に比べて「緑夏」の節間および葉身は "長く"、草勢は同程度に"強い"(表1)。8~9月播きでの主枝の雌花着生率は20~30%程度で「極光607」と同程度である。「極光607」に比べて果皮が "やや硬い"ことを除き、果実形質は同程度に"優れる"。褐斑病抵抗性は「極光607」と同程度に"強い"。
成果の活用面・留意点
- 「緑夏」はMYSVに感染するため、感染した植物は感染源になることから、媒介虫であるミナミキイロアザミウマの防除に努める。
- 「緑夏」の果実に激しいモザイク症状を生じさせるMYSV株も存在するため、このようなMYSV株が多発している地域での栽培には適さない。
- 「緑夏」は、雌花の着生がやや少なく、側枝の発生・伸長が旺盛なため、栽培方法としては摘心栽培、作型は抑制栽培に適する。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2012~2019年度
- 研究担当者:
杉山充啓、川頭洋一、下村晃一郎、野口裕司、吉岡洋輔、望月朗((株)埼玉原種育成会)、天野政史((株)埼玉原種育成会)
- 発表論文等:杉山ら「緑夏」品種登録出願公表第34129号(2019年11月5日)