高温による内部褐変症に強い「だいこん中間母本農6号」

要約

「だいこん中間母本農6号」は、高温が主因となって発生する内部褐変症に対し安定して強い耐性を示す。本系統の内部褐変症耐性には複数の遺伝子が関与しており、不完全優性に遺伝する。本系統は内部褐変症に耐性の育種素材として活用が期待される。

  • キーワード:ダイコン、内部褐変症、赤芯症、気候温暖化、高温
  • 担当:野菜花き研究部門・野菜育種・ゲノム研究領域・アブラナ科ユニット
  • 代表連絡先:電話 050-3533-1883
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ダイコン内部褐変症は赤芯症とも呼ばれ、高温が主因となって根内部が褐色に変色する生理障害である。本障害が発生した収穫物は商品価値が著しく減少する上、外観では障害の有無を判断できないため、夏期のダイコンの安定生産において大きな問題となる。近年では、夏期の主産地である北海道や青森県等の寒冷地においても被害が深刻化する場合があり、今後、温暖化がさらに進行した場合、夏期の国内供給が困難になることも危惧される。内部褐変症の発生程度には品種間差があり、産地では本障害に比較的強い品種が利用されているが、その耐性は必ずしも十分でない。そこで、強度の耐性を有し、実用品種育成のための育種素材として利用できる中間母本を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「だいこん中間母本農6号」は、実用形質に優れる自殖系統10P13と内部褐変症に強い沖縄県在来品種「シマダイコン」を交雑した後代について、自殖および高温条件下での選抜を繰り返すことにより内部褐変症耐性と主要形質を固定させた品種である。
  • 「だいこん中間母本農6号」の内部褐変症発生程度は、対照とした市販の夏ダイコンF1品種「夏つかさ旬」に比べ"極低"である。夏期に高温となる三重県津市および静岡県菊川市、夏期のダイコン産地である長野県茅野市および北海道北広島市で栽培したところ、全ての試験地で高い内部褐変症耐性を示す。(表1)。
  • 「だいこん中間母本農6号」と内部褐変症耐性の弱い自殖系統FT-18を交雑したF1においては、耐性は不完全優性に発現する(図1)。また、F2集団の内部褐変症発生程度の個体分布は、連続的で幅広い分布となることから、耐性には複数の遺伝子が関与すると考えられる。F2世代において、本品種と同程度の極めて強い耐性を持つ個体が出現する。
  • 「だいこん中間母本農6号」の葉長、根長、根径は「夏つかさ旬」に比べいずれも"小"で、全重、根重は半分程度である(表2、図2)。高温条件下での空洞症の発生は「夏つかさ旬」より"やや高"、す入りは発生しにくい。

成果の活用面・留意点

  • 「だいこん中間母本農6号」の内部褐変症耐性は不完全優性に遺伝するため、本品種と同程度の耐性を持つF1品種を育成する場合は、両親に耐性を導入することが望ましい。
  • 本品種の内部褐変症耐性と不良形質との連鎖は特に見られないが、耐性の強さと根重の間には弱い負の相関が見られる。

具体的データ

表1「だいこん中間母本農6号」の内部褐変症発生程度,図1 「だいこん中間母本農6号」と FT-18のFz集団における内部褐変症評点の頻度分布,図2 「だいこん中間母本農6号」の収穫物,表2「だいこん中間母本農6号」の収穫期の特性(初夏まき夏どり栽培) 試驗

その他

  • 予算区分:委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)、その他外部資金(農林水産知的財産戦略総合推進事業)
  • 研究期間:2010~2019年度
  • 研究担当者:
    小原隆由、柿崎智博、石田正彦、吹野伸子、板橋悦子、岡田英孝(横浜植木株式会社)、伊藤智司(横浜植木株式会社)
  • 発表論文等:
    • 小原ら「「だいこん中間母本農6号」」品種登録出願公表第34469号(2020年4月13日)