揃いと収量性に優れるグルコラファサチン欠失性のダイコン「令白」

要約

「令白」は、たくあん臭や黄変の原因となるグルコラファサチンを含まないダイコンである。根形は"長円筒形"で、根の揃いや収量性、す入りの生じにくさは「悠白」よりも優れる。臭わず黄変しない漬物原料としての利用が可能である。

  • キーワード:ダイコン、加工業務用、辛味、発色
  • 担当:野菜花き研究部門・野菜育種・ゲノム研究領域・アブラナ科ユニット
  • 代表連絡先:電話 050-3533-1833
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ダイコンに含まれる含硫配糖体(グルコシノレート)の一種であるグルコラファサチン(4-メチルチオ-3-ブテニルグルコシノレート)は、加工・保存過程において辛み成分や黄色成分、たくあん臭に変化する。農研機構がこれまでに育成したグルコラファサチン欠失性の漬物用ダイコン「悠白」は、黄変と臭いが発生しない画期的な品種であるが、自家不和合性を利用したF1品種であるため自殖種子の混入により根の揃いが劣ることが問題となっている。また、同品種は根重が1,500gを越えるとす入りが生じやすいことから、漬物原料としての収量性が劣るといった問題点がある。そこで細胞質雄性不稔性を利用することで自殖種子の混入がなく収穫物の揃いの向上が図られた、す入りが生じにくく収量性に優れたグルコラファサチン欠失性品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「令白」は、グルコラファサチン欠失性系統NMR154N(後の「だいこん中間母本農5号」)を育種素材とし、固定系統G34およびGSHAにグルコラファサチン欠失性を付与した系統間(cmsG34LとS84L)のF1品種である(図1、図2)。種子親のcmsG34Lは、BC3S1世代からCMS細胞質を導入することで雄性不稔化しており、細胞質雄性不稔性を利用した採種が可能である。また、cmsG34Lの維持にはG34Lを花粉親として利用する。
  • 「令白」の根重は「悠白」に比べて重く、収量性に優れる。根長は漬物用標準品種の「秋まさり2号」(柳川採種研究会)に比べて短いが、「悠白」に比べると長い。最大部根径は「秋まさり2号」に比べて太い。す入りは「秋まさり2号」に比べ生じにくく、空洞の発生や硬度は同程度である(表1)。
  • 「令白」のグルコシノレートとしては、グルコラファサチン欠失性の品種「悠白」と同様にダイコン品種に通常含まれるグルコラファサチンが含まれず、グルコエルシンが優占的に含まれる(表1)。
  • 「令白」をぬか漬け後7ヶ月間保存した塩蔵品製造時の原料歩留まり、たくあん臭や黄変の抑制程度を評価した。「令白」は根重1,500g以上でもす入りが見られず、また根形は"長円筒形"で亀裂や裂根が少ないため、「悠白」に比べて原料歩留まりに優れる。たくあん臭や黄変化は「悠白」同様に認められない(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 「令白」は、秋まき秋冬どり作型に適する。
  • グルコラファサチン欠失性は劣性に遺伝するため、採種時に欠失性でないダイコン花粉が混入すると、グルコラファサチン含有個体が出現してしまうため、花粉の混入には注意する必要がある。

具体的データ

図1 「令白」の育成系譜図,図2 「令白」の草姿,表1 「令白」の秋まき秋冬どり栽培における収穫物特性,表2 実需者による「令白」の加工適性評価

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2009~2017年度
  • 研究担当者:
    石田正彦、柿崎智博、小原隆由、吹野伸子、栗山淳、寺田保(渡辺農事株式会社)、菊池貴(渡辺農事株式会社)、李積軍(渡辺農事株式会社)、上原誉史(渡辺農事株式会社)、山田渉(渡辺農事株式会社)
  • 発表論文等:
    • 石田ら「令白」品種登録出願公表第34224号(2020年2月3日)