ゲノムワイドマーカーを用いて構築した世界的ナスコアコレクション

要約

構築したナスコアコレクションは、農研機構が保有するナス遺伝資源を対象に、ゲノム全体に配置したDNAマーカーを用いて選定された100点から成る。これは、世界中のナスを代表する最も充実したコレクションであり、育種素材の効率的な検索に有用である。

  • キーワード:ナス、コアコレクション、遺伝資源、ゲノムワイドマーカー、育種素材
  • 担当:野菜花き研究部門・野菜育種・ゲノム研究領域・ナス科ユニット
  • 代表連絡先:電話 050-3533-1833
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農研機構は海外探索等により収集・導入したナス遺伝資源を1000点以上保有しており、その由来は国内およびアジア地域を中心に35ヶ国以上の多岐にわたる。これまでに、当該遺伝資源から、病害抵抗性等の特徴ある有用形質が見出され育種に利用されてきた。しかし、すべての遺伝資源を対象に、新たな素材を検索するには多大な労力を要することから、全体の遺伝的多様性を維持したまま品種・系統数を絞り込む「コアコレクション」の構築が強く望まれている。そこで、本研究では、ナスのゲノム全体に配置した831のSNPと50のSSRマーカーの遺伝子型に基づいて、100点の遺伝資源から成るナスコアコレクションを構築し、効率的な育種素材の検索を可能にする基盤整備を行う。

成果の内容・特徴

  • 831のSNPと50のSSRマーカー座の遺伝子型情報から、解析できた893点のナス遺伝資源のうち、アジア地域、特に南アジアと東南アジアの系統が他の地域の系統よりも遺伝的多様性が高い(表1)。
  • 構築したナスコアコレクションは、上述の遺伝子型情報に基づき、できるだけ多様性が高く維持されるように選定された100点のナス遺伝資源により構成される(表1)。これをWorld Eggplant Core collection (WEC)とする。
  • WECは、遺伝的構造解析によりS1-S4の4つに大別され、それぞれを構成する地域は以下の特徴を有する。S1:ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ主体、S2:東アジアのみ、S3:東南アジア主体、S4:南アジアおよび東南アジア主体(図1)。
  • WECは、既存のナスコアコレクション(Weihai M. et al. 2008, Gangopadhyay K. et al. 2010, Cericola F. et al. 2013)を凌駕する数の母集団と遺伝子型情報に基づいて構築された世界で最も充実したナスコアコレクションである。
  • 遺伝子型情報に基づいて選定されたWECは、果実の色、形、大きさをはじめとする諸形質に大きな変異を包含し、育種素材の検索対象および種々の実験材料として有用であることを示唆している(図2)。

成果の活用面・留意点

  • WECの構築に使用した全てのSNPおよびSSR多型情報のほか、植物体や果実に関する諸形質のデータおよび写真については、農研機構が管理する野菜DNAマーカーデータベース「VegMarks」にて公開している。
  • WECの種子は農研機構農業生物資源ジーンバンクから入手することができる。

具体的データ

表1 解析したナス遺伝資源全体(母集団)およびWECにおける遺伝的多様性,図1 WECの遺伝的関係,図2 大きな変異を包含するWEC100点の未熟果と完熟果

その他

  • 予算区分:交付金(農業生物資源ジーンバンク事業)
  • 研究期間:2011~2018年度
  • 研究担当者:宮武宏治、新村芳美、松永啓、福岡浩之、齊藤猛雄
  • 発表論文等:Miyatake K. et al. (2019) Breed. Sci. 69(3):498-502