キクの開花に繰り返し短日遭遇を必要とさせるフロリゲン様遺伝子自己誘導機構

要約

短日植物であるキクの開花が正常に進行するためには、短日遭遇による花芽誘導だけでなく、その後も花芽が十分に発達するまで短日条件での生育が必要である。この時、茎頂での花芽発達を促進に関わるフロリゲン様因子、FTL3遺伝子の発現量が葉において自己誘導的に増加する。

  • キーワード:キク、光周性花成、短日植物、フィードバック制御、フロリゲン
  • 担当:野菜花き研究部門・花き生産流通研究領域・栽培生理ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6811
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

短日植物であるキクでは日長調節による開花調節が行われており、光周性花成機構の解明による技術の進展が期待される。光周性花成研究のモデル植物、例えばアサガオでは一日でも短日条件で生育させると葉から茎頂へ伝わる開花刺激の十分な上昇、すなわちフロリゲン様因子をコードするFT様遺伝子の発現増加が葉で起こり、その後は長日条件で生育させても正常に開花する。一方、キクが正常に開花するためには、花芽誘導後の花芽発達過程において短日条件下での生育を続ける必要がある。本研究では、キクの開花調節の高度化を目的として、連続した短日条件下におけるFT様遺伝子(FTL3)の発現量の変化を調べるとともに、その変化に関与する因子を見出すことで、連続した短日条件下での生育を必要とするキクの開花機構を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 短日条件下での生育を繰り返すことで、葉におけるFTL3の発現量は累積的に増加する(図1A)。FTL3が機能するために必要なFDL1をコードする遺伝子は茎頂と葉で同程度に発現している(図1B)。
  • FTL3過剰発現体(FTL3ox)では葉における内在性FTL3の短日誘導が早くなる(図2A)。FTL3oxであっても短日条件でないと内在性FTL3は誘導されない。FTL3は自身の発現を自己誘導的に正に調節すること、その機構には短日条件が必要である。
  • FDL1過剰発現体(FDL1ox)ではFTL3の短日誘導は早くなる(図2B)。FDL1発現抑制体(FDL1RNAi)ではFTL3の短日誘導は遅くなる。FTL3の正の調節にはFDL1が必要である。
  • 短日条件下のキクの葉においては、FDL1との相互作用によりFTL3がFTL3遺伝子の発現を自己誘導的に正に調節することで(図3A)発現量が累積的に増加する(図3B)。連続した短日遭遇による遺伝子の発現量の増加に伴い、葉で合成されたFTL3が茎頂により多く運ばれることで、花芽発達の正常な進行が達成される。
  • これまでFT様遺伝子発現の自己誘導的な増加が生長点で起こるとする例が、エンドウやジャガイモにおいて示されている。本成果はFT様遺伝子の発現の累積的な増加が、葉で自己誘導的に起こることを示したはじめての例となる。

成果の活用面・留意点

  • 植物材料としてキクタニギク(Chrysanthemum seticuspe)を用いた結果である。
  • 材料の育成は栽培気温20°C、8時間主明期+6時間暗期中断にて行い、短日処理は8時間明期・16時間暗期、長日処理は16時間明期・8時間暗期である。

具体的データ

図1 (A)葉におけるFTL3の発現量の推移 (B)FDL1の茎頂と葉における発現量比較,図2 FTL3(A)およびFDL1(B)組換え体の葉における内在性FTL3の発現量,図3 キクにおける繰り返し短日条件下でのFTL3誘導の模式図

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:中野善公、高瀬智敬、住友克彦、久松完、高橋重一(岩手生工研)、樋口洋平(東京大院)
  • 発表論文等:Nakano Y. et al. (2018) Plant Sci. 283:247-255