種子の配布が可能なトマト葉かび病菌レース検定用系統群

要約

「NIVFS-Cf2」、「NIVFS-Cf4」、「NIVFS-Cf5」、「NIVFS-Cf9」は、国内に導入されているトマト葉かび病抵抗性遺伝子Cf-2Cf-4Cf-5Cf-9をそれぞれ固定した同病菌レース検定用の系統である。本系統群の種子は国内の希望機関への配布が可能である。

  • キーワード:トマト葉かび病菌抵抗性、レース検定、トマト自殖固定系統
  • 担当:野菜花き研究部門・野菜生産システム研究領域・生産環境ユニット
  • 代表連絡先:電話 050-3533-4624
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

国内において多様なトマト葉かび病菌のレースが発生しており、抵抗性品種の利用も含めた防除対策の構築には、各産地等で発生するレースの同定が必要である。これまで、レースの同定に必要な接種検定は、国内の公的機関では農研機構野菜花き研究部門のみが、入手困難な海外品種群を用いて行っている。市販品種に導入されている抵抗性遺伝子に関する検定の需要が増加しており、迅速に対応するためには、都道府県の公設試などで、入手が容易な検定用系統群が必要となる。検定用系統では、各抵抗性遺伝子がホモに固定され、自家採種によって各機関において増殖・維持できることが望ましい。そこで、上述の特性を持つ、配布可能なレース検定用のトマト系統を新たに作出する。

成果の内容・特徴

  • 「NIVFS-Cf2」、「NIVFS-Cf4」、「NIVFS-Cf5」、「NIVFS-Cf9」は、トマト葉かび病に対する真性抵抗性遺伝子Cf-2Cf-4Cf-5Cf-9をそれぞれホモに固定した系統である(表1)。
  • 「NIVFS-Cf2」は、トマト葉かび病菌レース4.9.11の接種による抵抗性検定を行った、市販品種「サターン」の自殖固定系統である(図1)。
  • 「NIVFS-Cf4」は、レース2.9の接種による抵抗性検定を行った、市販品種「桃太郎ファイト」の自殖固定系統である。本系統はAvr4変異型・Avr4E野生型の葉かび病菌株に親和性であることから、海外品種ではCf-4と連鎖していることが知られている真性抵抗性遺伝子Cf-4Eは持たない。本系統は、非親和性の組み合わせで分生子形成が認められない白~黄色の偽病斑が形成される場合がある(図2)。
  • 「NIVFS-Cf5」は、レース4.9.11の接種による抵抗性検定を行った、市販品種「麗容」の自殖固定系統である。「麗容」はCf-9も持つが、自殖5世代以降では、Cf-9のマーカーを用いたPCR-RFLPによりCf-9の脱落が確認される。
  • 「NIVFS-Cf9」は、レース2.4の接種による抵抗性検定を行った、市販品種「フルティカ」の自殖固定系統である。
  • 作出した各系統にレース既知のトマト葉かび病菌を接種した場合、各系統の遺伝子型に対応した発病・抵抗性の反応が示されることから、これらの系統をレース検定に用いることができる(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 本レース検定用系統の種子は、農研機構野菜花き研究部門から配布可能である。配布後は各機関での増殖が可能であるが、取り扱いは「種子分譲条件書類」に従うものとする。
  • 既知の真性抵抗性遺伝子Cf-4E61119を侵すレースは、本系統群では検定できない。これらのうちCf-61119は国内市販品種には未導入であり、また、Cf-4Eを単独で持つ市販品種はない。

具体的データ

表1 作出した系統の特性,図1 抵抗遺伝子を持った市販品種からの自殖世代更新によるレース判別系統の作出例,図2 「NIVFS-Cf4」における非親和性菌株による偽病斑の例,表2 作出系統にトマト葉かび病菌各レースを接種した場合の発病の有無

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(発生予察)
  • 研究期間:2011~2018年度
  • 研究担当者:窪田昌春、飯田祐一郎
  • 発表論文等:窪田ら(2019)関西病虫研報、61:55-60