冷凍野菜の組織軟化における細胞膜の構造破壊の影響

要約

異なる条件で凍結したアスパラガスの評価を行う。X線CTによる氷結晶評価法と電気インピーダンス解析による細胞膜損傷の評価法を提示し、凍結時の細胞膜の構造破壊が野菜の組織軟化に影響を及ぼすことを明らかにするとともに、これを電気的特性で簡易に評価できる可能性を示す。

  • キーワード:野菜、冷凍、氷結晶、細胞膜、力学物性
  • 担当:野菜花き研究部門・野菜病害虫・機能解析研究領域・品質機能ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8015
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

冷凍食品の国内消費量は増加傾向にあり今後も需要の拡大が見込まれている。消費量の約4割を冷凍野菜が占めており、その多くは海外で加工され輸入されたものであるが、消費者からは国産冷凍野菜の需要があることから今後国内における野菜生産の拡大に貢献できる可能性がある。しかし、90%以上の水分を含有する野菜類は凍結・解凍後の組織軟化が著しく、その改善が望まれているものの、要因については氷結晶生成による組織破壊や細胞膜損傷による膨圧低下など諸説あり未だに不明な点が多い。本研究では、野菜凍結時の組織軟化に関与する要因について知見を得るため、異なる凍結方法によって生じる氷結晶の形態評価および細胞膜の損傷評価を行う。

成果の内容・特徴

  • アスパラガス茎部を実験試料とし、凍結前に沸騰水中で60秒加熱(ブランチング)後、氷水中で冷却した。凍結方法は、緩慢凍結として-30°Cのフリーザー内での凍結(SL)、急速凍結として-40°Cのエアブラスト凍結(AB)または-60°Cの液体窒素噴霧凍結(LNS)を行う。
  • 氷結晶観察にはX線CTによる間接観察法(真空凍結乾燥により凍結試料内部の氷結晶を昇華させ、生じた空隙を氷結晶痕として観察する方法)を用いた。緩慢に凍結したSL試料では組織内部に粗大な氷結晶が生じている一方で、急速凍結法であるABおよびLNS試料では氷結晶が微細化・均質化される(図1)。
  • 測定した電気インピーダンス特性より算出した細胞膜容量Cm、細胞外液抵抗Re、細胞内液抵抗Riの値(表1)の変化より、いずれの凍結・解凍試料においても細胞膜損傷が確認されたことから、細胞膜の構造破壊は凍結速度や氷結晶の大きさに依存せずに生じると推察される。
  • 力学物性を評価するため試料の圧縮試験を行い(図3)、弾性的な性質を表す指標として圧縮歪0.1までの傾きを算出した(表2)。その結果、SL試料と比べ急速凍結のABおよびLNS試料においてやや改善が見られたが、凍結前(ブランチング後)試料と比較するといずれの凍結試料でも大幅に低下しており、急速凍結による組織軟化の改善は限定的であることが分かる。
  • 野菜の凍結時における組織軟化には、氷結晶の形態とは独立に生じる細胞膜の構造破壊が大きく関与していると考えられ、これに伴う水あるいはイオンの透過性変化による膨圧低下が組織軟化に大きく影響するものと推察される。

成果の活用面・留意点

  • 凍結時における細胞膜損傷の機構を明らかにするため、今後凍結温度帯での細胞膜の挙動について明らかにする必要がある。
  • 電気的特性評価による細胞膜損傷の評価法は野菜の冷凍適性を評価する上で評価軸の一つとして活用できる可能性がある。今後、青果物に対する新たな冷凍・解凍技術を開発する上で重要なツールとなりうるとともに、冷凍適性を持つ野菜品種の選定にも活用できる可能性がある。

具体的データ

図1 凍結試料4分割断面のX線断層画像,図2 圧縮試験における歪-荷重曲線,表1 各試料の電気特性パラメータ,表2 各試料の力学物性パラメータ

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:安藤泰雅
  • 発表論文等:
    • Ando Y. et al. (2019) J. Food. Eng. 256:46-52