キクの高温開花遅延をもたらす高温感受性の日周変動

要約

高温遭遇はキクの開花遅延をもたらす。キクの高温に対する感受性は明暗認識と体内時計の制御で日周変動する。その制御の結果、感受性は暗期開始から暗期終了にむけて高くなる。

  • キーワード:開花遅延、キク、高温、高温感受性、日周変動
  • 担当:野菜花き研究部門・花き生産流通研究領域・栽培生理ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

我が国最大の花き品目であるキクは、日長処理等の開花調節技術に基づいた計画生産が行われている。しかし、キクには高温遭遇によって開花が遅延する性質(高温開花遅延)があり、日長処理に基づく計画生産の障害となる。特に供給の定時・定量性が求められる盆・彼岸等、大需要期において需給バランスが不安定になっている.これまでに、高温開花遅延現象の理解に基づいて開花調節を高精度化することを目的とし、高温下では開花ホルモンの生合成が阻害されること、キクの高温感受性が一日の時間帯で異なること、等を明らかにしている。本成果では、効果的な高温開花遅延の回避のために、高温感受性の日周変動を制御する要因を特定し、キクの感受性が高くなる時間帯を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • キクの高温開花遅延現象においては、高温感受性の高い時間帯での高温遭遇ほど遅延が大きくなる。異なる時間帯に同じ高温負荷に遭遇させ、高温処理を行わない場合との到花日数を比較することで、各時間帯の植物の高温感受性を評価する(図1)。日長条件・高温遭遇時間帯が異なる複数の実験を行うことで、明期/暗期の開始認識の影響・経過時間の影響等が明らかになる。
  • 高温感受性は、暗期認識によってリセットされる体内時計機構に制御され、暗期開始後から上昇する。暗期を十分に長く設けた場合、感受性は暗期開始から約12-16時間付近に最大となり、その後次第に低下するパターンを示す(図2)。
  • この時計機構による高温感受性の制御は、次の明期認識による制御で打ち消される。暗期中に上昇した感受性は、明期開始後に速やかに低下する(図3)。
  • 以上より、キクの高温感受性の日周変動を制御する要因が明らかとなる。国内のキク栽培では感受性が最大となる時間帯は日長条件にかかわらず夜明け前となる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • キク属のモデル植物として用いたキクタニギク(Chrysanthemum seticuspe)および栽培ギク(Chrysanthemum seticuspe)に適用される。
  • 栽培気温を20°Cとし、各時間帯に30°Cの高温負荷を与えた実験の結果より導かれた理論である。生産現場での環境調節に活用するためには、一日の気温の変動とキクの高温感受性の変動、両方に留意する必要がある。

具体的データ

図1 異なる時間帯の高温処理によってキクの高温感受性を評価した実験例,図2 開花遅延における高温感受性:暗期認識でリセットされる体内時計による変動,図3 開花遅延における高温感受性:明期認識による制御が加わった日周変動

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:中野善公、高瀬智敬、住友克彦、久松完、鈴木詩帆里(福島県農総セ)、津田花愛(宮城県農園研)
  • 発表論文等:Nakano Y. et al. (2020) Hort. J. 89:602-608