農畜産物の香りを下方から測定する香り測定装置

要約

農畜産物の香りを下方から一定距離で測定する手法を考案し、試作機を作製した。食品を置くだけで簡便に測定することが可能であり、香りの見える化に有効である。

  • キーワード:香り、センサー、食品
  • 担当:農業情報研究センター・農業AI研究推進室・確率モデルチーム
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

食品のおいしさを評価する手法として官能評価がある。多くの企業や施設で採用されているが、体調に依存する、嗅覚疲労を起こすことが知られており、一日に評価できるサンプル数が限られている。また、個人によって感覚が異なることから、少ないデータ数の場合、評価者が代わると過去のデータとの比較が難しい場合もある。
このため、官能評価をサポートする方法の一つとして、味覚センサーや嗅覚センサーが開発されてきた。味覚センサーは、6つの味を基本とした人工膜のセンサーにより構成されており、既に食品業界での活用が進んでいる。一方、嗅覚センサーの活用は、途上の段階である。理由として、人の嗅覚は約400種類の受容体の組み合わせで香りを認識しておりセンサーによる模倣が難しいこと、また、香りをセンサーで測定するための標準的な手法が確立されていないことが挙げられる。現状、嗅覚センサー装置で、食品の香りを測定することは可能であるが、大型の装置では測定値は安定であるものの、測定に時間がかかる傾向にあり、また、小型の装置では、サンプルとセンサー装置との距離によって測定値が変化し、測定する場所の気流の影響を受けることもあるため、安定的な値を出力するための工夫が必要である。
そこで本研究では、これらの課題を克服し、香りセンサー測定の標準化に資する方法を構築するため、小型センサーを用いて、下方から一定距離で測定する新たな手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本装置の基本構造は、サンプルを支える天板、筐体、及びセンサーから構成される(図1)。特徴として、香りを下方から測定するために、サンプルを載せる天板に穴が開いており、穴の下に香りをセンサーまで誘導する誘導壁を有する。天板を交換できる構造になっており、サンプルの大きさに合わせて、適した穴のサイズの天板を用いる。下方から測定することによって、サンプルとセンサーとの距離を一定に保つことができ、また、サンプルより小さいサイズの穴を持つ天板を利用することで、気流の影響を抑制することができる。
  • 香りセンサー値は、測定を始めると徐々に上昇し、一定時間経過した後に安定した値を示す。安定するまでの時間は誘導壁がある方が速く(表1)、本装置を用いることにより、センサー単体で測定した場合よりも測定時間を短縮することができる。
  • 試作機を作成し、トリュフ及びリンゴを測定した結果を示す(図2)。測定値は測定する香りの強度(放出される香り成分の濃度)によって変わる。香りの強い食品であるトリュフの方がリンゴよりも高い値を示す。また、トリュフ(図2a)及びリンゴ(図2b)において、固体間の香りの強度の違いを数値化することができる。
  • トリュフは切断面及び非切断面の双方から香りの測定が可能であり、試料の向きによらず安定した測定値が得られる(図2a)。また、香りの強度を調整可能な香料(図2b右端、リンゴ香料入りクリームを塗布した紙を使用)等を標品として用いることで、測定値の再現性及び精度を高められる可能性がある。

成果の活用面・留意点

  • キノコ、果実、チーズなどの香りの強さの見える化によって、香り強弱の付加価値化や、消費者が嗜好に合わせて食品を選択する際の指標として活用することができる。
  • 経時的な変化を追跡することができるため、果実の出荷時期や食べ頃、チーズの熟成の判別などに応用できる可能性がある。
  • 試作機には、市販嗅覚センサー装置(POLFA、株式会社カルモア製)の機構を一部利用している。
  • 本法とヒトが感じる香りとを関連づけるため、今後、官能評価や香気成分分析との相関をとる必要がある。

具体的データ

図1 香り測定装置の基本構造,表1 簡易装置(※)における安定値に到達するまでの時間,図2 試作機によるトリュフ(a)及びリンゴ(b)の香り測定結果

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2019~2020年度
  • 研究担当者:藤岡宏樹
  • 発表論文等:藤岡、特願(2020年11月19日)