携帯型NDVI測定機により穂肥前の移植水稲の窒素吸収量を推定できる

要約

小型で安価な測定機を用いたNDVI値と、穂肥時期までの水稲窒素吸収量との関係は指数関数で表され、その関数を用いてNDVI値から窒素吸収量を推定できる。これにより測定に手間を要する窒素吸収量を簡易に調べられる。

  • キーワード:水稲、NDVI(正規化植生指数)、追肥診断、窒素吸収量、移植栽培
  • 担当:東北農業研究センター・水田作研究領域・水田環境グループ
  • 代表連絡先:電話 019-643-3483
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農業の担い手不足や高齢化などを背景として、稲作では大規模化・省力化が進み、効率的な圃場管理が求められている。一方で、追肥診断は安定的に生産を続けていくために必要な技術であり、追肥診断においても効率的な診断技術の開発が望まれる。そこで省力的で扱いやすい水稲追肥診断技術の開発を目指した。
NDVI(正規化植生指数)は近赤色光と赤色光の反射率から計算される数値で、植生の分布状況や活性度を表すため、作物の生育量を予測できる。市販測定機GreenSeeker Handheld Crop Sensorは安価で取り扱いやすく、短時間でNDVI値を測定できる。この測定機を用いたNDVI値と水稲生育の関係を明らかにし、簡易な追肥診断技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 測定は携帯型NDVI測定機を手に持って、水稲の真上で測定スイッチ(トリガー)を引き続けながら移動させる。トリガーを離すと引き続けた間の平均値が表示される(図1)。
  • 穂肥前(有効茎決定期から減数分裂期まで)のNDVI値と窒素吸収量との関係は指数関数で推定できる(図2)。
  • 推定誤差の大きさを示す指標のRMSE(二乗平均平方根誤差)は、NDVI値から窒素吸収量を推定した場合は1.02(g-N m-2)である(図2)。従来から追肥診断に利用されている草丈、茎数、葉色の積から窒素吸収量を推定した場合のRMSEは1.11(g-N m-2)であり(図表略)、NDVIを用いた推定は従来法と同程度の精度を持つ。
  • 「あきたこまち」、「ササニシキ」、「つぶぞろい」の3品種ではNDVI値と窒素吸収量の関係に有意な品種間差はなく、共通の回帰式を利用できる。また、年次による差異も認められない。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、普及指導機関等が担当地域に合わせた追肥判断指標を作成する場合に参考とすることを想定している。
  • 測定機を地上から105cmの高さで、条に沿ってトリガーを引き続けながら10株分移動させてNDVI値を求めた。そのほかの測定時の注意点はGreenSeeker Handheld Crop Sensorの取り扱い説明書に準拠する。
  • 図2では、4つの測定時期(有効茎決定期、最高分げつ期、幼穂形成期、減数分裂期)を区別せず関係式を作っている。あらかじめ測定したい時期が決まっている場合には、測定時期別に関係式を作成するとより精度が高まる。
  • 秋田県大仙市の農研機構東北農研圃場における2年間(2015年、2016年)の結果であり、NDVI値と窒素吸収量の関係式のパラメーターは利用する地域に応じて検討する必要がある。

具体的データ

図1 NDVIの測定の様子?図2 各測定条件でのNDVI値と窒素吸収量の関係

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2015~2016年度
  • 研究担当者:浪川茉莉、西田瑞彦、高橋智紀
  • 発表論文等:浪川ら(2016)土肥誌、87(6):450-454