大気CO2濃度上昇によるコメの増収効果が高温で低下する要因
要約
大気CO2濃度の上昇によりコメ品種「あきたこまち」の収量は増加するが、高温条件では生育期間が短縮し、収量の受容器官になる籾数の増加程度が小さくなる。さらに籾の充実程度を示す登熟歩合が高CO2で低下することによって、増収率は低下する。
- キーワード:イネ、温暖化、開放系大気CO2増加、気候変動、CO2施肥効果
- 担当:東北農業研究センター・生産環境研究領域・農業気象グループ
- 代表連絡先:電話 019-643-3462
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
大気CO2濃度の上昇は光合成を促進して水稲の収量を増加させる。これまでに高CO2濃度(以下、高CO2)による増収効果は、高温条件で低下することを報告した(農環研主要成果2012)が、そのメカニズムは十分解明されておらず、将来の収量予測の重要な不確実性要因となっている。そこで、本研究では、気象条件が大きく異なる2点、計11作期に実施したFACE実験の結果から、CO2濃度に対する収量関連形質の反応が環境条件によって変動する要因を解析し、将来の作物生産の予測精度の向上に役立てる。
成果の内容・特徴
- 岩手県雫石町で7年、茨城県つくばみらい市で4年実施したFACE実験結果のうち、全作期で共通に用いた品種「あきたこまち」の生育・収量を解析対象とする。高CO2処理の濃度は、約50年後を想定した現在濃度+200ppm(約580ppm)である。生育期間中の平均気温は、雫石が20.1°C、つくばみらいが24.1°Cで、4°Cの差がある。
- 移植から出穂までの日数(到穂日数)は気温に比例して短縮したが、現在のCO2濃度条件では、1°C当たり3.5日出穂が早まったのに対し、高CO2条件では3.9日と早期化の程度は大きい(図1a)。寡照年を除くと、到穂日数の短縮とともに収量も減少するが、その低下程度は高CO2条件で大きい(図1b)。
- 地上部全重は、高CO2によって2地点で同程度に増加した(12~13%)のに対し、収穫指数(収量/全重)はつくばみらいでのみ有意な減少を示す(図2)。収量は高CO2により平均で11%増加した(図2)が、増収効果の年々の変動は0~21%と大きい。高CO2による増収は、籾数の増加に依存する(図2)。つくばみらいでは、雫石に比べて穂数の増加率が低く、登熟歩合は高CO2区で有意に低い(図2)。
- 高CO2に対する収量および収量構成要素の変化率と生育ステージ別の気象要素との関係を解析したところ、増収率は出穂後30日間の気温と最も高い相関を示し、冷害年を除くと気温の上昇とともに減少する(図3a)。これらは、籾数の増加率が高温で低下する(図4b)とともに、登熟歩合が減少する(図4c)ことによる。
- 以上から、高CO2が収量に及ぼすプラスの効果は、将来の温暖化条件で低下する。その程度を的確に予測するには、高温・高CO2に対する籾数獲得や登熟の反応を再現する必要がある。また、将来環境での生産性を向上させるためには、籾数確保と登熟改善が重要である。
成果の活用面・留意点
- 品種「あきたこまち」を標準的な窒素水準で栽培した条件の結果で、品種や栽培条件によって他の品種や施肥条件では異なる可能性がある。
- データの一部は、国際的な農業モデル比較・改良のためのプロジェクト(AgMIP)で作物モデルの検証と改良に活用されている。
具体的データ

その他
- 予算区分:委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)、競争的資金(科研費、環境研究総合)
- 研究期間:2010~2016年度
- 研究担当者:長谷川利拡、酒井英光、常田岳志、臼井靖浩、吉本真由美、福岡峰彦、中村浩史(太陽計器(株))、下野裕之(岩手大農)、岡田益己(岩手大農)
- 発表論文等:Hasegawa T. et al. (2016) Adv. Agric. Syst. Model. 7: 45-68