強粘質土壌転換畑においてダイズの根系を改善し増収させるスリット成形播種
要約
強粘質土壌水田転換畑でのダイズ作において問題となる、根系の発達不良を改善するため、播種位置の近傍に深さ20cmまでのスリットを成形する播種技術である。スリットの成形によって、主根の伸長と根密度の増加が認められ、中央値で13%の増収効果がある。
- キーワード:水田転換畑、ダイズ、根系改善、強粘質土壌、真空播種機
- 担当:東北農業研究センター・水田作研究領域・水田環境グループ
- 代表連絡先:電話019-643-3483
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
強粘質土壌の水田転換畑ではダイズの根系発達が弱く、一般的に根域の狭いダイズは低収となる可能性が高い。そこで、本研究では播種機の改良によりダイズの種子直下に深さ20cm程度の切れ込み(スリット)を成形し、根の土壌深部への伸長を促す技術(以下、スリット成形播種とする)を開発する。ここでは、この目的に親和性が高いと想定される、点播で播種精度が高い真空播種機を改良する。また、スリット成形播種による根系改善効果および収量増効果について明らかにする。
成果の内容・特徴
- 開発されたスリット成形真空播種機(図1左上)は既存の真空播種機の目皿を大粒ダイズ用に変更し、排土板の前面に、新たにスリット成形用のブレードを設置したものである(図1右上)。これにより、播種作業時に種子のごく近傍にスリットを成形する。ブレードの幅は15mmであり、ダイズ種子がスリットに落下しないよう、スリットが播種位置から15mmずれるような構造をもつ(図1左下、右下)。スリットの深さは地表面から20cmまでの範囲で調整できる(図1右下)。播種後は慣行どおりの栽培を行う。
- 秋田県大潟村の実証試験ではスリット成形播種区の全刈り収量は、スリット成形を行わず、そのほかの条件はまったく等しい対照区よりも高く、4ヵ年の増収率の中央値は13%である(図2)。莢数および百粒重が増加する傾向は認められるが、有意差はなく、特定の収量構成要素を改善する技術ではない。
- スリット成形播種区ではスリットに沿って根が深部に伸長する個体が多く、対照区に比べダイズの主根が深い。また、主根の下端よりも深い位置に存在する細根の分布密度が高まる(表1)。
普及のための参考情報
- 普及対象:強粘質土壌水田転換畑において大規模にダイズ作を行う生産者
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:東北地方を中心に750ha(強粘質土壌の転作ダイズの10%)を目標
- その他:スリット成形用のブレードおよび専用の目皿は真空播種機W30AB、W30AC、W42AB、W42ACのオプションとして、2018年1月以降スガノ農機株式会社から受注生産される。W30ABに適合するトラクターの要件は80ps以上、重量3,500kg以上、3P揚力2,500kgf以上。推奨されるスリット成形の深さは20cmである。他の播種様式でのスリット成形の効果は検討していない。スリット成形播種では黒根腐病の発生リスクがやや高まるので、種子消毒を必ず実施し、早播きは避ける。
具体的データ

その他