寒雪害に強いビール醸造用二条大麦「小春二条」

要約

「小春二条」は、二条大麦としては耐寒雪性が強く、東北・北陸地域の既存の六条大麦品種と比べ、麦芽エキスやジアスターゼ力などのビール醸造に関連する特性が優れている。穂発芽しにくく、赤かび病に強く、穀粒は大きく外観品質が優れる。

  • キーワード:二条大麦、醸造、耐雪性、麦芽エキス、ジアスターゼ力
  • 担当:東北農業研究センター・畑作園芸研究領域・畑作物育種グループ
  • 代表連絡先:電話029-838-7410
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

東北・北陸の寒冷地では地元産麦を使用したいわゆる地ビールが数社から販売されている。しかし、既存のビール用二条大麦は耐寒性や耐雪性が劣り、生産量や品質が安定しないため、耐寒性、耐雪性の優れる六条大麦による代替、あるいは二条大麦の春播栽培による対応がなされている。しかしながら、これらは秋播二条大麦と比べ醸造に係わる品質が劣る。そこで、寒冷地にも高品質な原料を供給することを目的として、耐寒性、耐雪性に優れる二条大麦品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「小春二条」は「ニシノゴールド」と「ミユキオオムギ」の雑種第1代を母に「九州二条11号(後の「ミハルゴールド」)」を父とする人工交配の後代から育成した品種である。
  • 麦芽エキス、ジアスターゼ力および総合的に醸造適性を評価する指標である麦芽評点が寒冷地の六条大麦主力品種である「ミノリムギ」より高く、ビール醸造適性に優れる(表1)。
  • 耐寒性および耐雪性は"やや弱"で「ミノリムギ」より劣るが(表2)、既存の二条大麦品種「あまぎ二条」等と比べると明らかに雪害に強い(図1)。
  • 耐倒伏性および穂発芽性は"中"、縞萎縮病抵抗性はI型に"極強"、II型に"やや強"、赤かび病抵抗性は"やや強"、うどんこ病抵抗性は"中"、小さび病抵抗性は"弱"である(表2)。
  • 播性がIIで(表2)、出穂期および成熟期が「ミノリムギ」とほぼ同程度の中生品種である。早生の主力品種「シュンライ」と比べると出穂期は6日遅い(表3)。
  • 稈長は「ミノリムギ」と同程度のやや長稈種で、穂数が多く、収量は少ないが、千粒重、容積重は大きい(表3)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:地ビール(クラフトビール)製造者及び委託生産を行う生産者。耐雪性から判断し、栽培適地は東北・北陸の平坦地(目安は根雪期間80日以下)である。
  • 普及予定地域・普及予定面積:岩手県、宮城県、秋田県、新潟県、石川県、長野県でそれぞれ数10a規模の栽培が行われている。
  • その他:成果の内容・特徴は東北農業研究センター(岩手県盛岡市)における成績で、出穂期、成熟期の早晩および耐雪性の区分は寒冷地北部(東北地域)における基準に基づく。根雪期間が80日を超える地域では殺菌剤や融雪剤を散布する等の雪害軽減策が必要である。また、稈長が長く、穂数が多くなりやすいので、倒伏を防ぐため、肥沃地では早播を避け、施肥量を控えめにする。

具体的データ

図1 「小春二条」(左)と「あまぎ二条」(右)の雪害発生状況


その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:1995~2017年度
  • 研究担当者:谷口義則、伊藤裕之、中村和弘、吉川亮、平将人、八田浩一、前島秀和、中村洋、池永幸子、伊藤美環子、伊藤誠治、中村俊樹、氷見英子、中丸観子
  • 発表論文等:
  • 1)谷口ら「小春二条」品種登録第17314号(2009年2月6日)
    2)谷口ら(2009)東北農研研報、110:1-15
    3)平ら(2009)東北農業研究、62:55-56