根出し種子による水稲無コーティング種子湛水直播の出芽促進と苗立向上

要約

水稲の無コーティング種子の代かき同時浅層土中播種栽培において、根だけを伸ばした根出し種子を用いることにより、催芽種子に比べて出芽が早くなり、苗立率と初期生育が向上する。

  • キーワード:水稲、湛水直播、根出し、無コーティング、苗立ち
  • 担当:東北農業研究センター・水田作研究領域・水田作グループ
  • 代表連絡先:電話019-643-3483
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

水稲無コーティング種子の代かき同時浅層土中播種栽培は省力・低コストな栽培技術である。しかし、苗立促進効果のある種子コーティングをしていないため、播種後の排水が不十分な場合など悪条件時に苗立率が低下する場合がある。また、直播栽培では、出芽が早くなれば除草剤の散布適期が長くなり、除草の安定化が期待できる。そこで、出芽促進と苗立向上効果のある種子予措技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 根だけを伸ばした根出し種子(図1A)と芽だけを伸ばした芽出し種子(図1B)は催芽種子(図1C)より出芽が早く(図2)、苗立率が高い(表1)。伸びた根や芽が機械播種により損傷した場合を想定して根や芽を切除して播種すると、根出し種子では根の切除による出芽率や苗立率への影響はない。一方、芽出し種子は芽の切除により催芽種子より出芽が遅く、出芽率が低く推移し、苗立率も低い。催芽種子と芽切除種子は出芽後枯死する個体がある。
  • 根出し種子は播種後21日目の草丈、葉齢、個体茎葉乾物重が催芽種子より大きく、根切除の影響は小さい(表1)。一方、芽出し種子も草丈、葉齢、個体茎葉乾物重は催芽種子より大きいが、芽を切除すると草丈と個体茎葉乾物重は催芽種子と差がなくなる。
  • 播種深度5mm程度の代かき同時浅層土中播種(散播)では、根出し種子は催芽種子より苗立率が高い(表2)。根出し種子では根長の長い根出し1区は根出し2区より苗立率が高い。
  • 苗立期の草丈、葉齢、個体茎葉乾物重は根出し種子が催芽種子より大きい(表2)。根出し種子では根出し1区は根出し2区より葉齢が大きい。

成果の活用面・留意点

  • 根出し種子は水稲無コーティング種子の代かき同時浅層土中播種における出芽促進と苗立向上に活用できる。
  • 平均根長5mmまでは代かき同時浅層土中播種機で播種できるが、平均根長7mmでは播種機が詰まった事例がある。催芽時間と根長の関係は品種間差があることを考慮して、根を伸ばしすぎないようにする。
  • 根出し種子は、5kgの種子を網袋に入れて、15°Cで5日または20°Cで4日浸種し、脱水後30°Cの蒸気式育苗器に入れて作成する(表2)。本試験では網袋のまま育苗器に入れたが、網袋を20kg入り紙袋に入れた上で育苗器に入れる方が根長のむらが少ない。
  • 室内試験は「萌えみのり」を用いた結果である。表2は農研機構東北農業研究センター大仙研究拠点(秋田県大仙市)の試験圃場において、2015年は「萌えみのり」を4月27日と5月12日に、2016年は「べこごのみ」を4月25日と5月18日に播種し、播種後5~8日間湛水した後に5~8日間落水した圃場試験の結果をまとめたものである。

具体的データ

図1 室内試験における播種時の種子の発芽状況(萌えみのり);図2 室内試験における出芽率の推移;

その他

  • 予算区分:その他外部資金(26補正「革新的緊急展開」、27補正「地域戦略プロ」)
  • 研究期間:2015~2016年度
  • 研究担当者:白土宏之、伊藤景子、大平陽一、川名義明
  • 発表論文等:伊藤ら(2018)日作紀、87(2):140-146