ホールクロップサイレージ用大豆栽培には耐倒伏性極強の晩生品種が適している

要約

リビングマルチ栽培における大豆ホールクロップ収量は晩生になるほど高いが、倒伏は大きな収穫ロスを引き起こす可能性があるため、高い耐倒伏性を備えた晩生品種が望ましい。また、早晩性に関係なく、タンパク質含量は輸入アルファルファと同等以上である。

  • キーワード:大豆ホールクロップサイレージ、耐倒伏性、リビングマルチ、無農薬栽培
  • 担当:東北農業研究センター・畜産飼料作研究領域・飼料生産グループ
  • 代表連絡先:電話019-643-3556
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ホールクロップサイレージ(WCS)用大豆は、アルファルファに代わる自給タンパク質飼料として有望であるが、使用できる登録除草剤が無いという制約がある。秋播き性が高い四倍体のイタリアンライグラス(IRG)をリビングマルチ(LM)として導入することで、無除草剤でもWCS用大豆を栽培できる体系が構築されたが、この栽培体系に適した大豆品種については十分に検討されていない。そこで、LM栽培下における生育特性、収量性、飼料成分等の総合的な評価に基づき、WCS用大豆栽培に適した品種を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • IRGを早春に播種し、6月下旬に若刈牧草として収穫後に大豆を不耕起播種すると、ほとんどの品種において、大豆ホールクロップのダイレクト収穫適期であるR7ステージ(黄葉中期)への到達が、IRGを播種しなかった対照区より2日前後遅くなる(表1)。しかし、極晩生の「フクユタカ」以外の品種であれば、降雪前にR7ステージに達する。
  • 生育期間の短い早生品種では、全生育期間に占めるLMとの競合期間の割合が相対的に高く、その結果、大豆ホールクロップ収量が対照区に比べてLM区で20%程度減収する(図1)。一方、晩生品種ほど減収程度は小さくなり、「タチナガハ」および「フクユタカ」ではLMの有無による収量の差異がほぼ無くなる。
  • LM区におけるホールクロップ収量は晩生品種ほど高い(図1)。
  • 中耕培土を行わない本栽培体系では、大豆個体の倒伏が生じやすく、コーンハーベスタで収穫する際に大きな収穫ロスが生じることが懸念される(表1)。しかし、晩生品種の「タチナガハ」は、倒伏が皆無に等しく、高い実収量が期待できる。
  • 最も高濃度にタンパク質を蓄積する器官である子実の乾物重が、ホールクロップ乾物重に占める割合(子実割合)は、晩生品種ほど低下する(図1)。しかし、子実割合が低いほど、子実以外の部位に残留する粗タンパク質含量が高くなる(図2)。その結果、大豆ホールクロップ中の粗タンパク質含量は、いずれの品種でも概ね20%を超え、輸入アルファルファ乾草と遜色ないタンパク質飼料が得られる(表1)。

成果の活用面・留意点

  • WCS用大豆の栽培・調製方法については、「若刈牧草とホールクロップサイレージ大豆の連続栽培による高タンパク質飼料生産」(2014年度普及成果情報、http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/tarc/2014/14_016.html)、WCS用大豆を用いた給与・産乳成績については「くず大豆および大豆ホールクロップサイレージは発酵TMR原料として有用である」(2014年度普及成果情報、http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/tarc/2014/14_017.html)を参照されたい。
  • 本成果は、岩手県盛岡市の東北農業研究センター(北緯39度45分、東経141度8分)において、イタリアンライグラスの品種「エース」を用いて行った試験結果に基づく。
  • 夏期の気温が冷涼な地域では、IRGの旺盛な再生により大豆の生育が大きく抑制される危険性が高まるため、盛岡市よりも夏期の気温が高い地域での栽培が望ましい。
  • 「タチナガハ」の種子については、奨励品種となっている各県(宮城県、茨城県等)の種子協会等に入手可能かを問い合わせる必要がある。

具体的データ

表1 大豆品種およびリビングマルチ(LM)の有無が、播種からR7ステージ(黄葉中期)までの日数(日)、倒伏個体割合(%)および大豆ホールクロップ中の粗タンパク質含量(%)に及ぼす影響;図1 R7ステージの対照区およびリビングマルチ(LM)区における各品種のホールクロップ乾物重の差異;図2. R7ステージにおける子実割合と子実以外の部位中の粗タンパク質含量との相関関係

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:内野宙、魚住順、出口新、嶝野英子、河本英憲、神園巴美
  • 発表論文等:Uchino H. et al. (2016) Field Crops Res. 193:143-153