基肥時のカリ増施によりそばの放射性セシウム吸収・子実への分配は抑制される

要約

基肥時のカリ増施はそばの放射性セシウムの吸収を低減し、根から茎葉および茎葉からそば子実への放射性セシウムの分配を抑制する。そば子実の放射性セシウムの移行低減には基肥時のカリ増施が重要である。

  • キーワード:そば、放射性セシウム、カリ、基肥、吸収、分配
  • 担当:東北農業研究センター・農業放射線研究センター・畑作移行低減グループ
  • 代表連絡先:電話024-593-1310
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2011年3月の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により、放射性セシウムの影響を受けた地域では、土壌から作物への放射性セシウムの移行を低減するため、カリ肥料の増施対策がとられている。本研究では、カリ肥料の増施が玄そばの放射性セシウム濃度を低減する機作を明らかにするために、圃場に土壌の交換性カリ含量が4段階に異なる試験区を設け、カリ肥料の増施が土壌と作物体内のセシウムの動態に及ぼす影響を解明する。得られた成果をもとに、そばへの放射性セシウムの移行を低減する効果的な増施技術を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • カリの施用による土壌の交換性カリ含量の上昇は、土壌の交換性(植物が吸収しやすい形態の)放射性セシウム濃度を低下させ、そば植物体(地上部+根)の放射性セシウムの吸収を低減する(図1)。
  • そば地上部の放射性セシウム濃度は、天然に存在する安定同位体セシウム濃度と有意な正の相関関係を示し、相関係数は幼苗期が0.878、開花期が0.968、登熟期が0.975、成熟期が0.951(いずれもP<0.001、n=24)である(図省略)。カリの施用による土壌の交換性カリ含量の上昇は、そばの根から地上部、茎葉から子実への安定同位体セシウムの分配を低減する(図2)。
  • そばは開花期まで放射性セシウムを旺盛に吸収し、その後の見かけの吸収は認められない(図3)。そばの開花期にカリ肥料を追肥してもそば子実への放射性セシウムの移行を低減する効果は低いことから(図4)、放射性セシウムの移行を低減するためのカリ増施は基肥時に行うことが重要である。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、福島県内の現地圃場(灰色低地土(軽埴土)、主要な粘土鉱物組成はスメクタイト、2:1-2:1:1型中間種鉱物)で得られた結果であり、土壌の交換性カリ含量と交換性放射性セシウム濃度の関係は土壌ごとに評価が必要である。
  • 放射性セシウムの吸収・体内分配に関する試験(図1~3)で得られたそば子実の放射性セシウム濃度は、5~245Bq/kgであり、カリ無施用区、カリ施用区(25、45、65mg K2O/100g)の平均値はそれぞれ164、27、15、10Bq/kgである。
  • 本成果は、カリ増施によるそばへの放射性セシウムの移行低減対策を実施している地域や、避難指示が解除された地域において営農を再開する際に、そばにおける放射性セシウム移行低減対策の基本技術として活用が期待される。
  • 2014年1月に農林水産省が公表した「放射性セシウム濃度の高いそばが発生する要因とその対策について~要因解析調査と試験栽培等の結果の取りまとめ~(概要 第2版)」と、2017年4月に農研機構東北農業研究センターが公表した「除染後圃場におけるそば栽培・収穫のポイント―営農再開に向けて―」には、そば子実の放射性セシウムの移行低減に関する総合的な情報が掲載されている。

具体的データ

図1 左:土壌の交換性カリ含量と交換性放射性セシウム濃度との関係。右:土壌の交換性放射性セシウム濃度とそば植物体(地上部+根)の放射性セシウム濃度との関係;図2 カリの施用が安定同位体セシウムの地下部と地上部(左)および茎葉と花・子実(右)の濃度比(器官間の分配)に及ぼす影響;図3 そば植物体の生育期間中の放射性セシウム濃度(左)と含量(右)の推移;図4 開花期の硫酸カリ追肥(+20mg K2O/100g相当)がそば子実の放射性セシウム濃度に及ぼす影響

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(営農再開)、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2013~2016年度
  • 研究担当者:久保堅司、藤村恵人、小林浩幸、太田健、信濃卓郎
  • 発表論文等:Kubo et al. (2017) Plant Prod. Sci. 20(4):396-405