土着天敵ヒメハナカメムシ類は光反射率の高い青色粘着板で効率的に捕捉できる

要約

青色粘着板の裏地に白色プラスティック板を貼り付け、光反射率を高くした粘着板では裏地なしの粘着板より多くのヒメハナカメムシ類成虫が捕獲される。本成果は重要な土着天敵であるヒメハナカメムシ類の効率的な捕獲法に応用できる。

  • キーワード:土着天敵、ヒメハナカメムシ類、定位反応、青色粘着板、捕獲方法
  • 担当:東北農業研究センター・生産環境研究領域・病害虫グループ
  • 代表連絡先:電話050-3533-1838
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、昆虫の視覚に対する行動反応研究から昆虫が異なる色の境界部分に多く定位することが知られてきており、対象昆虫類を効率的に捕獲する方法やトラップの開発が行われている。そこで、本研究では昆虫の色彩に対する定位反応を利用して、有力な土着天敵であるヒメハナカメムシ類の定量的・効率的な個体数調査方法の開発を行う。具体的には、これまでに調査実績のある青色粘着板を用いたトラップの捕獲数増強を目的として、粘着板に視覚コントラストとしてプラスティック板を貼り付けた「白色板貼付」、「黒色板貼付」、「裏地なし(青色粘着板のみ)」の間で捕獲数を比較する。また、粘着板内の捕獲位置や粘着板の光反射率の測定から捕獲数の異なる原因を解明する。

成果の内容・特徴

  • ヒメハナカメムシ類は白色板貼付>裏地なし>黒色板貼付粘着板の順に多く捕獲される(図1)。白色板貼付では裏地なしと比較して捕獲数が64%増加する。
  • 白色板貼付と裏地なし粘着板では粘着板の中心部よりも周縁部に有意に多く捕獲される(図2)ことから、ヒメハナカメムシ類は粘着板の周縁部(=異なる色の境界部分)に定位することが示唆される。
  • 白色板貼付と裏地なし粘着板で中心部と周縁部の捕獲割合に有意な違いはなく(対数線型モデル,p>0.05)、白色板貼付粘着板の捕獲数増加に縁取りによる視覚コントラストの関連は認められない。
  • 白色板貼付粘着板は紫外域から赤外域を含む波長域で他2種の粘着板より光反射率が高い(図3)。特に紫~青~緑色の波長域(400-550nm)では光反射率の差が大きく、裏地なし粘着板より58.3%反射率が高い。これは白色板貼付粘着板に用いた白色プラスティック板が透けて光を反射したことによると考えられる。この高い光反射率によって白色板貼付粘着板が他2種の粘着板より明るくなり、捕獲数が増加したと推察される。

成果の活用面・留意点

  • 本成果によってより効率的にヒメハナカメムシ類を捕獲するトラップなどの技術開発に応用できる。
  • 本研究で捕獲されたヒメハナカメムシ類478個体のうち分子同定によりナミヒメハナカメムシ54個体、コヒメハナカメムシ162個体が同定された。種ごとの色彩への反応や粘着板への定位位置については今後検討する必要がある。
  • 本成果に用いた青色粘着板はITシート(サンケイ化学(株)製)であり、他の青色粘着板製品については検討していない。

具体的データ

図1 白・黒のプラスティック板を貼り付けた青色粘着板と裏地なし粘着板によるヒメハナカメムシ類成虫の捕獲数;図2 青色粘着板3種における周縁部と中心部(右図参照)のヒメハナカメムシ類成虫の捕獲数;図3 青色粘着板3種の波長別光反射率

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2015~2017年度
  • 研究担当者:田渕研、髙橋明彦、霜田政美、日本典秀
  • 発表論文等:田渕ら(2017)北日本病虫研、68:168-172