除染農地においてそばで営農再開するためのカリおよび窒素肥料の増施

要約

農地除染後も土壌中には放射性セシウムが残存しているが、カリ増施や牛ふん堆肥の施用によりそばへの移行を低減できる。また、表土の剥ぎ取りとマサ土の客土により肥沃度が低下している場合が認められることから、除染後初作は窒素肥料も増施することにより生産性が向上する。

  • キーワード:そば、放射性セシウム、移行低減、除染圃場、営農再開
  • 担当:東北農業研究センター・農業放射線研究センター・畑作移行低減グループ
  • 代表連絡先:電話024-593-1310
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故による避難指示の解除が2016年以降進み、それらの地域では営農の再開が可能になっている。一方で、表土剥ぎ取りおよびマサ土による客土を行った除染圃場におけるそばへの放射性セシウムの移行性や栽培特性については情報が少ない。そこで、除染圃場におけるカリと窒素の増施および牛ふん堆肥の施用がそばへの放射性セシウムの移行性と生産性に及ぼす影響を解析し、除染圃場においてそばで営農再開を進めるための施肥技術を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 農地除染後も土壌中には放射性セシウムが残存し、除染圃場内で放射性セシウム濃度のバラツキが大きい場合がある(表1)。
  • 除染圃場においても土壌の交換性カリ含量とそば子実の放射性セシウム濃度は負の相関関係にあることから(図1)、そば子実の放射性セシウム濃度はカリ肥料を施用し土壌の交換性カリ含量を30mg K2O 100g-1(初作は50mg K2O 100g-1)に高めることにより低減する。初作は土壌の放射性セシウム濃度のバラツキにより(表1)、カリによる移行低減効果もばらつく(図1)。しかし、作付けを重ねるうちに土壌の放射性セシウム濃度のバラツキは低下し(表1)、カリ施用による放射性セシウムの移行低減効果は安定する(図1)。
  • 牛ふん堆肥の投入も土壌の交換性カリ含量を高めることから(図2)、そば子実の放射性セシウム濃度の低減に有効である。
  • 除染の行程で投入された客土(マサ土)は肥沃度が低い場合があり、そのような圃場での除染後初作では窒素肥料を慣行施用量の2倍とすることにより、そばの生育と子実収量を改善できる(図3)。そば子実の放射性セシウム濃度への影響は小さい。2作目以降については土壌診断の結果や初作のそばの生育を基に増施の要否を検討する。

普及のための参考情報

  • 普及対象:行政機関、農業研究機関、農業技術普及指導機関、生産者等
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:避難指示地域で除染が実施された農地(8,700 ha)のうち、そばで営農再開される地域
  • その他:本成果は「除染後圃場におけるそば栽培・収穫のポイント」として農研機構から公表されている。本成果を提供した川俣町仲ノ内そば会により営農再開された除染圃場においてもカリ肥料の増施が実施され、生産されたそば子実の放射性セシウム濃度は、作付けを再開した2015年以降すべて基準値未満である。川俣町山木屋地区におけるそばの生産面積は年々増加し、2019年度は5haを予定している。2014年1月に農林水産省が公表した「放射性セシウム濃度の高いそばが発生する要因とその対策について~要因解析調査と試験栽培等の結果の取りまとめ~(概要第2版)」http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/pdf/h25soba_yoin.pdfや、2018年3月に福島県が公表した農業技術情報第56号「大豆とそばの放射性セシウム吸収抑制対策」https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/256930.pdfにも、そば子実の放射性セシウムの移行低減に関する総合的な情報が掲載されている。

具体的データ

表1 除染圃場の放射性セシウム(137Cs) 濃度の範囲、平均値および変動係数の経年変化(川俣町山木屋地区の現地除染圃場),図1 土壌の交換性カリ含量とそば子実の137Cs濃度との関係(表1と同じ現地除染圃場),図2 牛ふん堆肥の施用がそば成熟期の土壌の交換性カリ含量、子実収量、そば子実の137Cs濃度に及ぼす影響 (表1と同じ現地除染圃場、2016年),図3 窒素肥料の増施が除染後初作目のそば開花期の茎葉の乾物重、子実収量、そば子実の137Cs濃度に及ぼす影響 (表1と同じ現地除染圃場、2014年)

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(営農再開)
  • 研究期間:2014~2017年度
  • 研究担当者:久保堅司、小林浩幸、藤本竜輔、太田健、信濃卓郎
  • 発表論文等: