気候、栽培条件の趨勢を考慮した水稲の面的出穂日予測のWeb発信システム

要約

水稲の面的出穂日予測に、30年平年値よりも、前年からの10年平年値、5年平年値を入力値とした方が、出穂日とその平年差の推定精度が向上する。本予測情報のWeb発信システムにより、事前に、広域的な出穂日とその平年差の概略を把握することができる。

  • キーワード:出穂日、平年期間、水稲、1kmメッシュ、システム
  • 担当:東北農業研究センター・生産環境研究領域・農業気象グループ
  • 代表連絡先:電話019-643-3462
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農研機構メッシュ農業気象データを利用して、水稲の出穂日の面的分布を計算する方法を開発した(2017年度普及成果情報)。この方法は、品種や植え付け時期などの面的情報なしで、簡易に当該年の出穂日とその平年差を面的に捉える利点があるが、近年の気候や植え付け時期、品種の変化に対応できない可能性がある。そこで、気候や栽培条件の趨勢を考慮することで、高精度な面的出穂日予測情報のWeb発信システムを開発する。

成果の内容・特徴

  • 2017年度普及成果情報「水稲の出穂日を面的に推定するプログラムと推定マップをweb公開」では、1981年から2010年までの30年間の平年田植日、平年出穂日、平年気温と当年の気温から、同期間の1kmメッシュの出穂日を推定している。この方法で、2011年から2017年までの7年分の1kmメッシュの出穂日を計算する。この出穂日に田面積で重み付け平均した21作柄表示地帯、7年分、合計144点の推定出穂日を求める。この推定出穂日と実際の出穂日(東北農政局公表)の二乗平均平方根誤差(RMSE)は、2.3日、平均誤差(Bias)は、-1.0日である。
  • 前年を含む過去数年に平年値算出期間を変更して、1kmメッシュの出穂日を計算する。1.と同じ手順を行い、1年から30年まで平年値算出期間に対して、それぞれのRMSE、Biasを計算する(図1)。10年平年値のRMSE、Biasは、それぞれ2.0日、-0.2日、5年平年値のRMSE、Biasは、それぞれ2.0日、0.2日であり、推定精度が向上する。
  • 山形県最上における、30年平年値の推定出穂日は,2011年以降誤差が拡大するが、10年平年値,5年平年値の推定出穂日は誤差が拡大しない(図2)。
  • 5年平年値を入力して、2018年の日々の出穂日とその平年差のメッシュ図を作成し、8月15日現在の作柄概況の出穂日とその平年差(東北農政局8月31日公表、平年差は前5か年の平均値)から作成した図と比較する。7月4日の出穂日の平年差のメッシュ値は0日前後であり、出穂日は平年出穂日とほとんど変わらない。7月25日の出穂日とその平年差のメッシュ図は、共に、8月15日の図とほぼ同じであり、7月下旬頃には、広域的な出穂日とその平年差の概略の判断が可能である。8月15日の出穂日とその平年差のメッシュ図は、作柄概況の出穂日とその平年差をおおよそ再現している(図3)。
  • 出穂期などの作柄概況は事後に公表されているが、10年、5年平年値を入力する面的出穂日予測は、事前に広域的な出穂日とその平年差の概略を把握することができる。

成果の活用面・留意点

  • 1kmメッシュの平年出穂日は、その地点を含む作柄表示地帯の平年出穂日に等しいと仮定していることに留意する。
  • 水稲の面的出穂期予測は、現地の水田において、スマートフォンなどの端末により、容易に確認することができる。

具体的データ

図1 平年値算出期間を変更した場合の、推定出穂日と実際の出穂日の二乗平均平方根誤差(RMSE)と平均誤差(Bias),図2 山形県最上の推定出穂日と実際の出穂日の比較(出穂日は8月の日),図3 5年平年値を入力した2018年の出穂日とその平年差のメッシュ図の推移、上:出穂日,下:出穂日の平年差,左から7月4日、7月25日、8月15日、右端は8月15日現在の作柄概況(8月31日、東北農政局公表を作図)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:川方俊和、長谷川利拡、大久保さゆり、大野宏之
  • 発表論文等:
    • 川方(2019)東北の農業気象、63:1-12
    • 川方(2017)生物と気象、17(4):77-82
    • 川方ら、特願(2018年5月9日)
    • 農研機構(2018)「水稲の面的出穂期予測」http://www.headmesh.affrc.go.jp/(2018年5月21日)