イタリア産和食用米との技術比較に基づく東北の大規模業務用米生産の課題

要約

イタリアでは和食用米を作業時間2.2~3.6時間/10a、費用60円台/kg、収量500kg/10a台で生産できる。東北の大規模業務用米生産は作業時間4.9時間/10a、費用117円/kg、収量600kg/10a台であり、イタリア並みの生産性向上には区画拡大と粗放生産に適した品種特性獲得が課題である。

  • キーワード:水稲直播、イタリア、リザイア、業務用米
  • 担当:東北農業研究センター・生産基盤研究領域・農業経営グループ
  • 代表連絡先:電話 029-838-8874
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

国内でも農業法人が数10ha規模で業務用米等を生産する事例が増加し、その将来展望と生産費用の低減に向けた技術面の課題を示す必要性が増している。国内最先端の経営の中には海外視察を行い、イタリアをモデルとしている経営も増えており、今後、追い付くべき対象は欧米の稲作と思われる。欧州一のコメ生産国かつ輸出国であるイタリアは、欧州内、中東、米国、豪州まで輸出を行い、欧州内では和食用米「セレーニョ」も輸出している。そこでイタリア方式の直播栽培である「リザイア」と東北の大規模経営が業務用米を乾田直播で生産する事例について、効率と費用、生育条件を比較し、国内最先端の経営に対する今後の省力化等への技術的課題を示す。

成果の内容・特徴

  • リザイアとは2ha程度の区画をつないだ圃場において、プラウ耕、レベラー、砕土の後、無代かき条件で、施肥同様のブロードキャスタによる湛水表面散播直播か、ドリル式乾田直播を行う省力化した粗放な稲作の様式である(表1左)。播種量が20kg/10aと多いため、高い耐倒伏性、短稈、穂重型の特徴を持つ品種が適する。イタリアの経営は作業時間2.2~3.6時間/10a(表2)、収量500kg/10a以上(表3)を実現している。現地の気温は日本の北東北に該当する。
  • イタリアでは和食用米「セレーニョ」は、大規模経営におけるリザイアで、籾で約7t/ha、粗玄米重を籾の80%とすると玄米で560kg/10aの収量が得られ、費用合計64円/kgで生産できる(表3中央)。「セレーニョ」の一部は日本語のブランド名でイタリア、ドイツで販売されている。同品種を扱う精米業者は他製品を豪州にも輸出しており、東アジアにも輸送可能である。
  • 一方、116ha規模の東北の事例は最大237馬力のトラクタ他を保有し、平均0.7ha区画の水田で無代かき、プラウ耕グレーンドリル乾田直播のコンビネーション播種技術を用いて業務用米を生産している(表1右)。全作業時間は4.9時間/10aと国内ではトップクラスの効率である(表2)。イタリアと東北の事例を比較すると耕起、均平、施肥の効率差は少なく、大型トラクタ導入の効果が表れている。しかし一区画の面積と水管理等の差から、イタリアの平均程度の経営(43ha)と比較して約1.4倍、同大規模経営(250ha)に対し2倍の作業時間が必要である(表2)。また、東北の事例では、自脱コンバインによる収穫作業が規模拡大を制約することや、その償却期間が5~6年と短いことから、農機具費が多くなり、費用合計が117円/kgとなる (表3右) 。
  • 日本におけるリザイアを想定した圃場試験(無代かき、浸種籾20kg/10aを湛水表面散播)において、イタリアの品種は日本の品種より苗立ち率が高く、浮き苗になりにくく、低温条件(15°C)での発芽、出芽が速い (表4)。それがリザイア向き品種の特性と考えられる。この特性を獲得した品種なら肥料散布と同じ効率でブロードキャスタによる湛水直播が可能になる。東北の事例でリザイア向き品種が導入されれば、播種作業が0.13時間/10aから0.06時間/10aへ半減され、直播稲作において一層の省力化が見込まれ、かつ専用播種機が不要になる効果がある。また、乾田直播の導入が困難な地域においては、さらに大幅な播種作業効率の向上の効果が期待できる。

成果の活用面・留意点

  • 稲作の国際競争力の強化または省力化を課題と意識する研究者、稲作経営者に参考となる。
  • ここでは和食用米とは、炊飯器で調理され、寿司への使用を想定した品種と位置付ける。
  • 1ユーロ=130円として計算する。
  • イタリアの20kg/10aの種子投入量に準じて試算すると日本では種子代が10,000円/10aとなり、費用合計が現在より約14円/kg上昇する。このためリザイアのような高密度播種の導入には、種子価格体系の見直しが重要である。

具体的データ

表1 事例における主要農機具・作業の整理,表2 イタリアと日本の作業時間比較,表3 玄米収量1kgあたり費用合計の比較,表4 密播条件における苗立ち率、浮き苗程度の比較、低温条件での発芽・出芽速度

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)、その他外部資金(27補正「地域戦略プロ」、28補正「経営体プロ」)
  • 研究期間:2014~2019年度
  • 研究担当者:笹原和哉、古畑昌巳、吉永悟志、野沢智裕(青森産技セ)、横山裕正(青森産技セ)
  • 発表論文等:
    • 古畑ら(2017)農研機構研究報告中央農研、2:1-15
    • 笹原(2015)農業経営研究、52-4:19-24
    • 笹原ら(2018)農村経済研究、36-1:81-87