低窒素栄養条件でも高CO2による増収が大きい水稲多収品種の特性

要約

日本型品種「コシヒカリ」では、低窒素条件では籾数が少なく高CO2による増収が認められない。一方、多収品種「タカナリ」では低窒素条件でも籾数が比較的多く確保され、高CO2による増収効果が維持されるとともに、高CO2による白未熟粒の発生が少ない。

  • キーワード:CO2施肥効果、開放系大気CO2増加(FACE)実験、気候変動適応、収量、白未熟粒
  • 担当:東北農業研究センター・生産環境研究領域・農業気象グループ
  • 代表連絡先:電話 019-643-3414
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

高CO2濃度(以下、高CO2)条件における高い生産性は、気候変動に適応するための品種育成において重要な特性である。これまでの研究から、多収イネ品種の「タカナリ」は、「コシヒカリ」に比べて籾数や乾物生産能力が高いだけでなく、高CO2に対しても高い増収反応を示すことが知られている。「タカナリ」の多収性には窒素栄養が深く関わるが、高CO2による増収(CO2施肥効果)が低窒素栄養条件下でも発揮されるかは明らかではない。そこで、低窒素条件における高CO2に対する収量および品質反応の品種間差異を開放系大気CO2増加(FACE)実験で検証する。

成果の内容・特徴

  • 日本および中国のFACE実験において各地で一般的に栽培される日本型品種では、窒素施肥量が8gm-2以下では、高CO2(外気+200ppm)による増収率が低下する(図1)。
  • つくばみらいFACE実験で、多収品種「タカナリ」と対照品種「コシヒカリ」を低窒素条件で比較栽培したところ、「コシヒカリ」の収量は高CO2で増加しないのに対し、「タカナリ」の収量は18%の増加を示す(図2a)。
  • 「タカナリ」は「コシヒカリ」に比べて高CO2による乾物重の増加が大きい(図2b)。さらに、「コシヒカリ」は高CO2によって収穫指数(乾物に占める収穫器官の割合)が低下するのに対し、「タカナリ」の収穫指数は「コシヒカリ」に比べて著しく高く、高CO2条件でも低下しない(図2c)。「コシヒカリ」は高CO2によって白未熟粒率が14ポイント増加したが、「タカナリ」の白未熟増加は小さい(図2d)。
  • 「コシヒカリ」は、高CO2および低窒素条件では乾物重の割に籾数が少なく、シンク容量不足によって収穫指数が低下する(図3)。一方「タカナリ」は、CO2、窒素条件に関わらず乾物生産に応じた籾数が確保され、収穫指数が高く維持される。「タカナリ」は高CO2条件で窒素吸収が促進されるだけでなく、日本型品種に比べて窒素吸収量当たりの籾数が極めて高く、低窒素条件でもシンク容量が確保される(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 「タカナリ」は低窒素条件でも高い籾数生産効率によって高CO2施肥効果が維持されるとともに、高CO2による外観品質の低下も小さい。これらの形質の遺伝的要因を解明することにより、高CO2条件における窒素利用効率の向上が期待される。
  • つくばみらいFACE実験に用いた水田は、窒素施肥なしでも6gm-2程度の窒素吸収が見込まれる比較的肥沃な水田である。
  • 「タカナリ」は高CO2で窒素吸収が増加するため、低窒素条件で栽培を継続すると地力窒素が消耗する可能性がある。したがって、低窒素条件における生産の持続可能性については注意が必要である。

具体的データ

図1 日本(岩手県雫石町,茨城県つくばみらい市)FACEおよび中国(江蘇省無錫)FACEにおける日本型品種の高CO2処理による収量の増加率と窒素施用量の関係,図2 つくばみらいFACEの無窒素区における「タカナリ」および「コシヒカリ」の(a)玄米収量、(b)地上部乾物重、(C)収穫指数および(d)白未熟粒率の3か年の平均と標準誤差,図3 つくばみらいFACEにおける3か年3窒素水準の乾物重当たりの籾数と収穫指数の関係,図4 雫石(「あきたこまち」)、つくばみらい(「タカナリ」、「コシヒカリ」)、中国FACE(「武香粳14号」)における3か年3窒素水準の地上部窒素吸収量とm2当たりの籾数との関係

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2012~2018年度
  • 研究担当者:
    長谷川利拡、酒井英光、常田岳志、伊川浩樹、林健太郎、臼井靖浩、中村浩史(太陽計器(株)、若月ひとみ、Charles P. Chen(Azusa Pacific大学)、張国友(南京信息工程大学)、中野洋、八島未和(千葉大)
  • 発表論文等:
    • 長谷川利拡ら(2018)土肥誌、89:491-496
    • Hasegawa T. et al. (2019) Frontiers in Plant Science 10:1-15