土壌水分推定モデルとヒストリカルデータを利用したダイズの土壌乾燥害の定量化

要約

農研機構メッシュ農業気象データと蒸発散推定モデルを組み合わせた土壌水分推定モデルを使用し、過去に実施されたダイズ栽培試験での土壌体積含水率を再現する。体積含水率と収量との関係を解析することにより、土壌乾燥による減収量を明らかにできる。

  • キーワード:ダイズ、土壌特性値、土壌体積含水率、ヒストリカルデータ、メッシュ農業気象データ
  • 担当:東北農業研究センター・生産環境研究領域・農業気象グループ
  • 代表連絡先:電話 019-643-3414
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

これまでに土壌乾燥が原因と考えられるダイズの減収が全国的に報告されているが、土壌水分の計測は容易でないために、土壌乾燥の収量への直接的な影響は十分に分かっていない。土壌乾燥による減収を回避するためには潅水が有効である。しかしながら、地域・年次の気象や土壌要因に左右され土壌乾燥が起こる時期は異なるために、生産者等が潅水適期を判断するのは難しい。
そこで、本研究では、潅水判断基準を策定するための基礎情報を得る目的として、農研機構メッシュ農業気象データとFAO56蒸発散推定モデルを組み合わせた土壌水分推定モデルを使用し、農研機構東北農業研究センター大仙研究拠点で過去33年間に実施されたダイズ品種の生産力検定試験の収量や百粒重と土壌体積含水率との関係を解析する。東北地方の日本海側北部のダイズ栽培における土壌乾燥による減収量を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 土壌水分推定モデルは、ダイズ作付圃場の土壌特性値(圃場容水量、永久しおれ点、耕深)を取得することにより、栽培期間の土壌体積含水率の経時変化をうまく再現する(図1)。
  • 土壌水分推定モデルにより、過去33年間における圃場の土壌体積含水率を再現し、月別の平均値を計算し、収量や百粒重との関係を解析すると、8月の平均土壌体積含水率と収量や百粒重の関係は直線式で回帰される(図2)。土壌体積含水率が1%低下すると、収量が0.8kg a-1減少し、百粒重が0.55g軽くなると予測される。
  • 過去33年において、開花期前後の日々の土壌体積含水率と収量との相関係数の経時変化を調査すると、開花前11日目から開花後35日目までの期間で数値が高い日が見られ、開花後33日目の数値が最も高い(図3)。これらの期間は収量への土壌乾燥影響が大きい時期で、潅水適期と判断できる。

成果の活用面・留意点

  • 他の地域で過去に蓄積された栽培試験データに土壌水分推定モデルを適用することにより、国内のダイズ栽培における土壌乾燥害の実態を明らかにできる。さらに、潅水適期や潅水が必要となる土壌水分の閾値等の潅水判断基準の策定も期待できる。

具体的データ

図1 東北農業研究センター大仙研究拠点での2か年の土壌体積含水率の実測値と推定値の比較,図2 過去33年(1980~2012年)の8月の平均土壌体積含水率と収量や百粒重との関係,図3 過去33年における土壌体積含水率と収量との相関係数の時系列変化

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2014~2019年度
  • 研究担当者:熊谷悦史、髙橋智紀、中野聡史、松尾直樹
  • 発表論文等:熊谷ら(2018)日作紀、87:233-241