温暖化時におけるダイズ増収に有用な日長反応性の遺伝子座

要約

東北地方での温度上昇に伴い、日長反応性遺伝子E4を持つ「エンレイ」では、開花始から着莢始までの期間が延長し、莢数が増え、増収するが、E4を持たない早生型準同質遺伝子系統では変化しない。日長反応性遺伝子座を利用することで、温暖化適応品種の開発が期待できる。

  • キーワード:温暖化、収量、ダイズ、日長反応性遺伝子座、発育
  • 担当:東北農業研究センター・生産環境研究領域・農業気象グループ
  • 代表連絡先:電話 019-643-3414
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

温暖化が進行する中で、国内ダイズ生産を高位安定化させるためには、温暖化に適応する為の品種特性を明らかにすることが重要である。これまでの研究で、ダイズ品種「エンレイ」では、温度上昇によって、播種から開花始までの日数は短縮するが、開花始から開花終や着莢始までの日数が延長し、花蕾数や莢数が増え、収量が増加することが明らかになっている。ダイズは長日下では発育が抑制され、着莢始にも日長が作用するが、その日長反応性は品種で異なる。夏季の長日条件下では、「エンレイ」が有する日長反応性によって開花期以降の発育進行にブレーキがかかり、開花期間が延長し、花蕾数や莢数を確保でき増収したものと考えられるが、その遺伝的要因は明らかになっていない。
そこで、本研究では、「エンレイ」が有する晩生型の日長反応性遺伝子座E4に着目する。温度勾配チャンバーを利用し、慣行の6月上旬(長日条件)に「エンレイ」と、目的遺伝子領域以外はほぼ「エンレイ」の遺伝子型に固定され、E4遺伝子座を早生型e4に置換した準同質遺伝子系統を播種し、それらの温度上昇に対する発育や収量応答を比較する。

成果の内容・特徴

  • 温度上昇(開花始から成熟始までの平均気温で19~26°Cの範囲)に伴い、「エンレイ」では稔実莢数が増え、子実収量が増加するが、「早生型e4遺伝子を有する準同質遺伝子系統(エンレイ-e4)」では変化が無い(図1)。
  • 播種から開花始までの日数は、両遺伝子型において、高温条件で短縮する。開花始から着莢始までの日数は、「エンレイ」では高温条件で延長するが、「エンレイ-e4」では温度の影響を受けない(図2)。「エンレイ」では、この期間の延長に伴い、稔実莢数が増加する(図3)。
  • 両遺伝子型の開花始から着莢始までの日数の逆数である発育速度とその期間の平均気温と平均日長の関係を直線回帰すると、温度上昇に対して両遺伝子型の発育速度は同じように低下する(図4)。一方、長日に対しては「エンレイ」でのみ発育速度が低下する。したがって、温暖化条件での「エンレイ」の増収に関与する開花後の日数延長には、温度上昇による若干の延長効果に加え、長日とE4遺伝子による延長効果が寄与する。
  • 以上のように、温暖化適応には日長反応遺伝子座の利用が有効である。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、温度勾配チャンバー(細長い温室の妻面に換気ファンを設置し、反対側妻面の入気口から取り入れた外気を日射や暖房機より徐々に昇温させ、内部に連続的な気温勾配を得る装置)内の異なる温度条件でのポット試験で得られた結果である為、圃場条件での検証が必要である。また、岩手県盛岡市での日長条件で得られた結果であり、温度、日長、作期等が大きく異なる地点での検証が必要である。
  • 現在東北地方で作付けされる主要な品種はE4遺伝子を持つので、「エンレイ」と同様な反応を示す可能性が高い。

具体的データ

図1 「エンレイ」と「エンレイ-e4」における開花始から成熟始までの平均気温と子実収量および稔実莢数との関係,図2 異なる温度水準における「エンレイ」と「エンレイ-e4」の発育ステージの変化,図3 「エンレイ」と「エンレイ-e4」における開花始から着莢始までの日数と稔実莢数の関係,図4 「エンレイ」と「エンレイ-e4」における開花始から着莢始までの日数の逆数である発育速度とその期間の平均気温と平均日長との関係

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
  • 研究期間:2013~2019年度
  • 研究担当者:熊谷悦史、山田哲也、長谷川利拡
  • 発表論文等:Kumagai E. et al. (2019) Food Energy Secur. e186