天敵タバコカスミカメはバーベナとトマトどちらに放飼してもオンシツコナジラミを抑制できる

要約

天敵温存植物としてバーベナを定植した施設栽培トマトにおいて、天敵タバコカスミカメをバーベナに放飼した場合とトマトへ放飼した場合とで、タバコカスミカメの発生は同程度であり、トマト株上の害虫オンシツコナジラミ密度を低く推移させたことから、いずれも放飼植物として適する。

  • キーワード:土着天敵、生物防除、天敵温存植物、タバコカスミカメ、トマト
  • 担当:東北農業研究センター・生産環境研究領域・病害虫グループ
  • 代表連絡先:電話 029-838-8939
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

天敵昆虫タバコカスミカメはコナジラミ類、アザミウマ類の有力な天敵として知られており、海外では生物防除資材として広く利用されている。本種は雑食性の天敵であり、バーベナ、ゴマ、クレオメなど好適な植物では害虫がいなくても生存・繁殖可能なため、待ち伏せ型の天敵昆虫としての利用が国内でも期待されている。本種はトマトだけでは繁殖できないため、施設栽培トマトにおいてはトマト苗と天敵温存植物を同時に定植し、天敵温存植物へタバコカスミカメを放飼することで、温存植物上で待ち伏せていたタバコカスミカメによる作物上の害虫防除が可能になる。この防除法は西日本地域で開発されており、気象条件の異なる東北地域でも実証が行われている。
天敵温存植物としてバーベナを定植した施設栽培トマトにおいてトマト株上へタバコカスミカメを放飼した場合、本種が施設内に定着して害虫密度を抑制できれば放飼作業の簡便化につながるが、これまでに比較事例はない。本研究では、バーベナあるいはトマト株のどちらか一方へタバコカスミカメ放飼を行い、トマト株への定着や発生数・発生消長ならびにオンシツコナジラミ個体数への影響を比較検討する。

成果の内容・特徴

  • 雨よけハウスにトマトを30株、バーベナを14株(2017)、10株(2018)定植した夏秋栽培条件下において、タバコカスミカメ15頭をトマトに放飼した場合とバーベナ上に放飼した場合では、トマト上のタバコカスミカメの発生消長に大きな違いはなく、この傾向は2年間共通である(図1)。
  • オンシツコナジラミのハウス内への侵入は2016、2017、2018年ともに確認される(データ省略)が、タバコカスミカメを放飼しない場合、トマト株上でオンシツコナジラミの個体数が増加する(図2、2016年)。一方、タバコカスミカメを放飼した場合、オンシツコナジラミ成虫を計90個体放飼したにもかかわらず、いずれのハウスもトマト上のオンシツコナジラミは低密度で推移する(図2、 2017・2018年)。
  • これらのことから、施設栽培トマトにおいてタバコカスミカメはトマトとバーベナ、いずれに放飼してもトマト株上のオンシツコナジラミ個体群の抑制に効果がある。

成果の活用面・留意点

  • 施設トマトにおいてタバコカスミカメを天敵として利用する場合、放飼する植物をバーベナに限定する必要がないことが示されたため、定植直後などの放飼作業の簡便化が図られる。
  • 2017年はトマト・バーベナ定植直後からタバコカスミカメをトマトに放飼したハウスでアリ類が徘徊しているのが観察され、当該ハウスのトマトやバーベナにおけるタバコカスミカメ個体数増加に影響があったと考えられる(図1上段)。タバコカスミカメの定着を高めるためにはハウス内のアリを減らしておくことが望ましい。

具体的データ

図1 放飼植物が異なるハウスにおけるタバコカスミカメの発生消長,図2 トマト株上のオンシツコナジラミ個体数推移

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:田渕研、上杉龍士、髙橋明彦
  • 発表論文等:田渕ら(2019)北日本病虫研、70:135-140