ダイズ畑における潅水意思決定支援のための土壌水分予測システム

要約

1kmメッシュ農業気象情報から得られる気象情報、およびユーザーが入力する土壌情報と営農情報から、ダイズ畑作土の体積含水率を日単位で推定するシステムである。特に土壌の体積含水率が低下する暦日を精度良く推定することができるため、潅水の意思決定を支援することができる。

  • キーワード:潅水、ダイズ、土壌水分、1kmメッシュ農業気象情報、意思決定支援
  • 担当:東北農業研究センター・水田作研究領域・水田環境グループ
  • 代表連絡先:電話 029-838-8877
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

わが国のダイズにおける潅水の実施率は地域差があり2~38%となっている(2015年農水省調べ)。潅水のタイミングは気象条件や土壌要因に左右されるため見極めが難しく、実際には潅水の必要性が見過ごされた地区や年次が存在する可能性は高い。そこで本研究では適期潅水を実現するための方策のひとつとして、1kmメッシュ農業気象情報から得られた気象情報に土壌情報、営農情報を加え、日単位の土壌水分を簡易に推定することで、潅水適期を示し、潅水の意思決定を支援するプログラムを作出する。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、サーバー上で運用され、生産者等はシステムに対象圃場に関する位置情報、ダイズ情報、土壌情報、潅水情報等を入力する(表1)。するとシステムは1kmメッシュ農業気象情報を参照し、ダイズ畑の作土における土壌の体積含水率(図1中では「土壌水分」と表示)、有効水量、水ストレス指数の推定値等を日単位で算出・表示する。また、10日先の予報値に基づく土壌水分の予測値も表示される。生産者等は、これらの結果を大豆の潅水の適期判断に活用することができる(図1)。
  • 土壌水分の推定は図2に示すとおり、日単位の有効土層内での水分収支の計算をベースとしている。降水量と蒸発散量は1kmメッシュ農業気象情報値を用い、FAO56モデルから蒸発散量を求める。また蒸発散量の推定に必要な植被率は条間と出芽後の積算気温から推定している。有効土層(作土深)および潅水量はユーザーが入力する。なお、本システムにおける浸透水量については、圃場容水量を超えた土壌水は当日中に浸透するとの仮定に基づいて計算されており、加えて黒ボク土壌については下層からの土壌水の毛管上昇分を調整するようになっている。モデルの仮定より、周囲から水の侵入がある圃場、根が下層土にも多く分布する圃場での利用は想定していない。
  • 4地点(沖積土3地点、黒ボク土1地点)での精度の検証結果では、システムの予測値は概ね実測値に合致し、特に土壌水分が低下する暦日を精度良く推定することができる(図3)。
  • 本システムは水田転換畑での活用を想定しているが、作土下端で根の伸長が制限される畑地においても適応可能である(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本システムを活用することで、リアルタイムでの潅水の意思決定、および過去の事象に乾燥ストレスの影響があったかどうか推定が可能となる。
  • 本システムは栽培管理支援システム(https://agmis.naro.go.jp/)の一部として、2021年3月末まで、研究開発や実証への協力者、機能の試行を目的とする者などに無償利用を許可している。
  • 本システムの使用環境はプログラム言語PHPがインストールされたコンピュータ(Windows、Linux、Mac等)である。利用はPHPスクリプトからの呼び出しで行い、実行により計算結果が返される。計算に使用する気象データは別途開発されたPythonプログラム(AMD_Tools3.py)によって取得する。AMD_Tools3.pyの入手には農研機構メッシュ農業気象データシステムの利用者ホームページ(http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/juuten_fukyuu/2016/juuten03.html)への登録が必要である。
  • システムに基づいた潅水による大豆の増収効果は今後実証予定である。

具体的データ

表1 入力が必要な項目(12項目)と出力される項目,図1 開発したシステムの概観,図2 土壌の体積含水率の推定手法の模式図,図3 4地点でのシステムによる予測値と土壌水分の実測値の比較 日本土壌インベントリー

その他

  • 予算区分:その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2014~2018年度
  • 研究担当者:髙橋智紀、熊谷悦史、岡田周平(株式会社ビジョンテック)、中野聡史、松尾直樹
  • 発表論文等: