低コストで高強度な建設足場資材を利用した園芸ハウスの寒冷地への適用

要約

建設足場資材利用園芸ハウスは低コストであり、積雪を考慮して屋根勾配を20度以上とした構造とすることで、滑雪性が高まり積雪による倒壊を回避できる。さらに、ハウス内に保温カーテンを設置することにより、寒冷地における施設生産に対応できる。

  • キーワード:園芸用ハウス、低コスト、高強度、建設足場資材、保温カーテン
  • 担当:西日本農業研究センター・傾斜地園芸研究領域・傾斜地野菜生産グループ
  • 代表連絡先:電話 0877-62-0800
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

東日本大震災の被災地である岩手県沿岸南部地域では、担い手の育成を図りながら施設園芸を核として農業復興を加速し、新たな食料生産地域として再生する取り組みが行われている。同地域は、リアス式海岸特有の山が海に迫る地形が多く、狭あいで傾斜の多い地形であることから施設の大規模化が困難である。また、夏作に有利な夏季冷涼な気象特性を有する一方で、寒冷地であることから秋作から冬春作にかけては保温対策が必要である。
温暖地中山間地域における中小規模施設園芸向けのハウスとして開発した建設足場資材利用園芸ハウス(H22年度研究成果情報など)は、傾斜地や不整形な圃場に建設可能であり、耐風速35m/s以上とされる鉄骨補強型パイプハウスと同程度の強度を有するとともに、その約8割のコストで施工できることから、震災からの復興に資する技術としてその適用が期待されている。そこで、建設足場資材利用園芸ハウスについて、寒冷地や西日本の高冷地において適用可能な仕様を開発・実証して施工手順を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 建設足場資材を利用した園芸ハウスの施工手順を整理・検証した結果、間口7.2m×奥行き45mのハウスの場合、本体工事と被覆資材展張に係る作業時間は47.4人日(0.15人日/m2)である(図1)。資材費用は約5,300円/m2(内張り資材込み)と低コストである。
  • 従来の施工と同様、形状や傾斜など圃場の条件に合わせてハウス形状と棟方向を決定するが、間口5m程度までは片屋根型、間口を広く取りたい場合には両屋根型とし、滑雪性を考慮して屋根勾配は20度以上とする(図2)。積雪の荷重で屋根面にたわみが生じないよう、垂木パイプ(φ48.6mm)は従来3mであった間隔を1.8mに狭めるとともに、横垂木(桟)パイプ(φ31.8mm)を約95cm間隔で配置する。側面には補助支柱(基礎無し)を1.8m間隔で追加した構造とする。
  • 耐積雪荷重は384N/m2(積雪深約44cm)であり、30年確率最大積雪深が29.0cmとなる実証試験地の設計基準に対応した構造である(図3)。このため、2014年の最深積雪(18cm、観測史上9位)程度では積雪の影響による構造の破損は認められていない。
  • 内張りカーテン(資材費約1,000円/m2)を設置することにより、暖房設定温度10°Cの場合、約1,500円/m2の燃油経費が削減でき、一冬(10月~翌4月)で償却できる(図4)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:施設園芸生産者、温室施工事業者
  • 普及地域・普及面積:最大積雪深30cm以下の地域。東北以西において142a以上の設置実績がある。
  • その他:実証試験はH25~26年度に岩手県陸前高田市で実施した。供試した建設足場資材利用園芸ハウスは、平坦地に設置した東西棟で間口7.2m、奥行45m、棟高4mの天窓付きスリークオーター型(棟部で北側屋根を約50cm下げて段差部を天窓とした構造)であり、資材費用は本ハウスの実績である。必要部材や詳しい施工手順については、施工マニュアル(吉越ら、2017)を参照。

具体的データ

図1 施工手順と作業時間;図2 耐雪型の骨組み構造;図3 大船渡(陸前高田に最も近いアメダス観測所)における年最大積雪深とその超過確率の関係;図4 陸前高田実証試験地の気温に基づく燃油経費の節減効果(10月~4月)

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(地域再生)
  • 研究期間:2013~2016年度
  • 研究担当者:吉越恆、長﨑裕司、川嶋浩樹、松田周、杉浦誠、有馬宏(岩手農研)、太田祐樹(岩手農研)、鈴木朋代(岩手農研)、千葉彩香(岩手農研)、川村浩美(岩手農研)、山田修(岩手中央農改普及セ)、森山英樹
  • 発表論文等:
    1)吉越ら(2015)近中四農研報、14:65-76
    2)吉越ら(2017)「建設足場資材利用園芸ハウスの施工マニュアル」(2017年3月28日)